第53話 ホームレス、大ピンチ
要塞は瞬く間に、戦場に変わった。
要塞の右翼が猛攻にあっていた。激しい爆音が連続で発生する。
偶発的な攻撃に対する威嚇や警告攻撃ではない。完全にこちらを攻め潰すつもり満々だ。
「クニカズ少佐の魔力で、右翼の損害は軽微です!」
最初の攻撃はうまく乗り切ったな。敵も攻撃には限界がある。魔力の容量もあるし、砲弾の補給もある。
つまり敵の攻撃力は有限だ。ローザンブルク軍が、ヴォルフスブルクに侵攻する場合は、この要塞を攻略するしかない。
迂回する場合は、山岳が邪魔して大軍の移動は難しいからな。
少数の兵力だけで侵入しても、包囲されて崩壊する。
ここを突破できるかどうかで、ヴォルフスブルクが生存できるかどうかが決まる。
まさに天王山だ。
「しかし、妙だな。どうして敵軍は、この要塞の弱点である右翼を集中して狙うんだ?」
俺はあえてその言葉を漏らす。
俺はそうなる理由を知っているからだ。
「クニカズ、まさか?」
「ああ、おかしいだろう。普通なら大砲の弾は満遍なく降り注ぐのがセオリーだ。にもかかわらず、明らかに右翼しか狙っていないんだ。情報が漏れていると考えた方がいい」
「だが、要塞の構造は、最高機密だぞ。それが漏れているなんて、一大事だ。ヴォルフスブルク中枢に裏切り者、内通者がいるってことに……」
俺は静かにうなずいた。
だが、この内通者は歴史イベントなんだ。誰がスパイかはランダムで決まる。そして、この後のイベントで正体が判明し次のイベントに移行する。
誰が内通者がわからないからやっかいだぜ。
「アルフレッド、内通者がいることだけわかっただけでいい。ここからでは何もできないんだ。俺たちは防衛に専念するぞ」
「ああ、そうだな。クニカズ。敵の攻撃も有限だからな」
右翼は軽微な損害だけだ。このままなら敵の攻撃の第一波は乗り越えられる。
要塞の守備力を維持したまま、第二ステージに移行できれば勝算は見えてくる。
だが、敵の攻撃は一瞬で変化する。
「大変です。敵の攻撃が、左翼に集中しています」
「なんだと!?」
俺の魔力総量は有限だ。だから、守備力が弱い箇所の補強に回した。左翼は、守備が比較的に固いから後回しだった場所だ。
魔力による補強なら敵の攻撃はほとんど受けない。だから、右翼は現状では最強の守備力を誇っているが、相対的に見れば左翼の防御力は低くなっているんだ。
そこを火力の集中砲火を浴びれば、被害は拡大する。
まさか、ここまで柔軟な作戦指揮をしてくるとは……
さすがは、永久凍土の荒鷲だ。
「左翼の防御壁、中破しました。被害も多数出ているようです」




