第51話 ホームレス、謀略を看過する
俺たちは司令官室で対策を講じていた。要塞の脆弱な箇所は、右翼壁。そこを重点的に補強し、要塞を死守することで外交の場における政治力で勝利する。
これが俺たちの基本戦略だ。女王陛下の政治力に期待する。ある意味、他力本願だが……
そして、事件は会議中に発生した。3度の爆発音が外から響く。窓の外には、大きな爆発によって引き起こされた煙が見えた。
ローザンブルク側の領土で巨大な爆発が発生したようだ。
「なんだ、あれは!?」
アルフレッドは俺に向かいそう発する。リーニャ少佐が「状況から魔力爆発のようです」と報告されて、俺はすべてを察した。
「謀略だ」
「「えっ?」」
歴史的に見ても、敵からの攻撃を偽装して口実にすることはある。
一番有名なのは、満洲事変だろう。日本陸軍の関東軍が暴走して、日本の権益化にあった南満洲鉄道の線路を爆破し、それを口実に満洲の支配権を確立した。ほかにも、張作霖爆殺事件でも同じような手口が使われている。
つまり、向こうがやりたいこともこれと同じだ。
先ほどの爆発を俺たちのせいにして、ヴォルフスブルクを一気に制圧するつもりだ。
ただ、謀略による軍事行動はリスクもかなり高い。実際、日本が第二次世界大戦に突入しなくてはいけなくなったのも、これらの謀略が遠因になっている。
謀略によって、自国民に多大な犠牲をもたらす惨劇を呼び込んでしまったんだ。
失敗した場合の国際的な批難のリスクよりも、ヴォルフスブルク併合を優先するつもりか!?
「敵軍は、先ほどの爆発を口実にこちらに攻めてくる。守備を固めるぞ」
ふたりは、きょとんとした顔でその言葉を聞いてすべてを悟って動き始めた。
俺たちが動き始めたと同時に、要塞の眼前に大砲が着弾する。すでに準備を終えたうえで動きやがったな。
「砲撃が開始されたぞ」
巨大な爆音とともに、要塞の城壁は震える。
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用語解説
関東軍
大正期から昭和初期まで存在していた日本陸軍の総軍のひとつ。
大陸における日本の租借地である遼東半島と南満洲鉄道を防衛するために存在していたが、徐々にエリート士官たちが暴走し、政府すらも制御できない状況に陥った。
満洲と満州
正式な漢語表記は「洲」。中国最後の王朝を作った満洲族が暮らしていた中国の東北部を指す。
ただし、日本の新聞や教科書などは慣例上「州」の字を使うことが多い。
南満洲鉄道
主な業務は、鉄道業だが、製鉄・航空・電力・ホテル・牧畜・農業・鉱山・シンクタンクなどあらゆる業務を担当し行政権すら保有していたモンスター企業。




