第46話 ホームレス、根回しに動く
―要塞司令官室―
「アルフレッド。すまない、朝早くに時間を作ってもらって」
俺たちは業務が始まる前に、打ち合わせをはじめる。
朝食を食べながらのミーティングだ。まさか、元ニートがここまで働き者になるなんて思わなかったぜ。
将軍の朝食は、かなり質素だった。ライ麦パンとベーコン、ピクルス、チーズ。一兵卒が食べている者とほとんど変わらない。贅沢しようと思うならできるだろうに、なるべく贅沢をしないようにしているらしい。
唯一の贅沢みたいなものは、ドライフルーツがデザートに少しだけ出てくる。アルフレッドはフルーツが好きらしい。
「さぁ、行儀は悪いが食べながら話そう。仕事が始まる前に話しておきたいことなんだろう?」
「ありがとうございます、閣下」
「閣下はいらない。この朝食のテーブルでは、俺たちは友人関係だ。ざっくばらんに情報交換をしよう」
「ありがとう、アルフレッド! 今回のローゼンブルクの軍事演習が、確実にヴォルフスブルクを威嚇する意味合いがあると思うんだ」
「ああ。軍事演習の中心は、砲撃戦を想定しているな。おそらく要塞攻略を目的とした軍事演習なんだろう」
「ローゼンブルクはおそらく、俺たちが制圧したアール砦での軍事紛争の情報をつかんでいると考えた方がいいのではないか? ザルツ公国が情報を隠ぺいしているとはいえ、公国が砦の制圧に失敗したという情報は持っていると俺は思っている」
「なるほどな。だから、こんなに緊急的に大規模軍事演習を企画したと?」
「うん。大国がいきなりこんな演習をおこなうなんて、ちょっと不自然だろ? おそらく、ローゼンブルクがヴォルフスブルクを脅威に感じているんだと思う。ザルツ公国が数的に有利でありながら、ヴォルフスブルクの守備戦術に敗北したとなれば、俺たちに注目しなくてはいけなくなるだろう」
「たしかに、そう考えればすべて辻褄があうな。本当にクニカズはどこまで鋭いんだ? 軍人にならなくとも情報局に勤めればエースになれるよ」
よし、アルフレッドならわかってくれると思っていたぜ。
「そして、俺はこの後に起きる最悪の状況に備えなくてはいけないと思っているんだ」
「最悪の状況?」
「大国がヴォルフスブルクを脅威だとみなしていたら、考えることはひとつだけだろ? 軍人として敵が巨大化する前に対処した方がいい」
「軍事演習のスキを見て偶発的な攻撃を仕掛けてくるつもりか!?」
「ああ。うまく全面戦争になればヴォルフスブルクを滅ぼせる。ある程度、軍事的なダメージを与えることができただけでも、ヴォルフスブルクの国力を考えれば再生するまでにはかなりの時間がかかる」
「今回のローゼンブルクの軍事演習の目的は、強大化しつつあるヴォルフスブルクを叩くことで、将来の脅威となる芽が成長する前に刈り取ること、か。わかった、すぐに中央にキミの分析を伝えよう。優秀な女王陛下のことだ。なんとかしてくれるはずだな」
「ああ。それから、要塞内部の兵士たちには第一種警戒態勢を。これが杞憂であればいいんだが、準備をしておくことで被害は確実に減らせる!!」