第44話 ホームレス、火薬庫にいることを自覚する
朝に用事があるので先に更新しました!
いつもの7時更新分です!
その後、俺とアルフレッドは一緒に要塞内を視察した。
いたるところに、要塞砲が配備されていて、敵国の襲来に備えている。
ヴォルフスブルクにおいて、もっとも重要な仮想敵国はローザンブルク帝国だ。大陸最強の陸軍を擁し、常に領土欲をあらわにする好戦的な国家だからだ。
あの国は領土のほとんどが寒冷地のため、肥沃な大地と冬季に凍ることがない港を常に求めている。
前世ではロシアが担当した歴史の役割を引き継いでいると考えればいい。
ヴォルフスブルクがドイツを担当しているならば、まさに犬猿の仲だ。
ロシアとドイツは、陸軍大国として、2度の世界大戦で敵対している。
第一次世界大戦では近代化が遅れていたロシアが苦戦し、ドイツの近代的な陸軍の前に敗戦を重ねてついにロシア革命が勃発して脱落した。
逆に、第二次世界大戦では、独ソ戦が大戦中最大の激戦となり、機動力を武器としたドイツ軍が人海戦術で物量をぶつけてきたソ連軍に敗れ去った。
歴史の重要な転換点において、両国は常に対立していた。
だから、この世界でもヴォルフスブルクが生き残るためには、ローザンブルク帝国をどうやって抑え込むかがすべてだ。
「今日も激しい軍事演習だな」
アルフレッドは地平線の先で起きている爆音を聞きながらポツリとつぶやく。
「ローザンブルクの伝統は数的な有利を維持したうえで、強力な火力で敵を切り崩して数で圧倒する作戦だからな」
「さすがは異世界の英雄様だな。この世界に来たばかりなのに、もうそこまで到達しているとは?」
そこをツッコまれると、俺もやりにくいんだけどな。前世でゲームをやって覚えましたなんて言えない。
だが、俺はこの世界に来てから便利な言葉をおぼえたんだ。それを言えば皆納得してくれる。
「あんまりからかうなよ。大学の図書館で本を読んだだけだよ」
大学の図書館。これほどみんなを納得させる言葉を俺は他に知らない。
「才能もあふれているのに、勉強熱心とは妬けるな」
その冗談に笑い合いながら、俺はこの世界に来てから一番の不安を感じていた。
嫌なイベントを思い出していたんだ。
そのイベントは、アルフレッドとニコライ=ローザンブルクが両国の国境沿いにいることが条件で、偶発的な軍事衝突が発生するものだ。選択肢を誤れば、そのまま開戦しヴォルフスブルクは滅亡する。
俺がここに赴任したのは、そのイベントを回避するためだ。アルフレッドが要塞の指揮官になることは確定事項だった。これを避けるには、アール砦の防衛を失敗する必要があったからな。そちらのルートなら、グレア帝国によってヴォルフスブルクは滅亡しているはずだ。
だから、このイベントの方向へと俺は誘導した。こちらは、まだ条件が緩く回避は可能なはずだからな。
ここから、俺の新たな生き残り戦略が始まる。