第40話 ホームレス、研修期間を終える
「それでは、ただいまよりヴォルフスブルク王国軍事大学の卒業式をおこなう」
学長がそう宣言して、俺たちは卒業を迎えた。
とはいってもみんなは正規のコースで学んできたわけだから、1年間だったけど、俺はある意味裏口だから、1か月ちょっとの学生生活だった。
いや、ほぼ毎日机上演習させられるとは思っていなかったけどさ……
もっと戦略論とか真面目に受けたかったけど、なんとなくこの世界の常識を学べたし、仲間とも知り合えた。完璧すぎる1か月だった。
ちなみに、学年末のテストは俺も参加した。
これはテストと言っても、卒業論文だった。
教官が選ぶ題材について、自由に自分の考えを書くような感じだ。
俺は、得意の戦略論を選択して書いたのが……
『戦力温存主義と軍事力均衡化による抑止力の研究』という論文だ。
これはわかりやすいと思う。簡単に言ってしまえば、イギリスのある提督の考えをこっちの世界に置き換えたものだ。
彼の考え方は非常にわかりやすい。
「自国が敵国を上回る軍事力を保持し続けることができれば、敵国はその抑止力によってこちらに侵略することはできない。双方の軍事力が均衡状態なら平和は訪れる」という考え方だ。まぁ、アーサーハーバート提督はこの考えを、自分の指揮の失敗の弁明のために使ったそうだけどね。
でも、これは一理ある。冷戦下に核戦争が発生しなかったのも、2つの超大国がお互いの国を滅ぼしてもお釣りが来るほどの核兵器を持ち合っていたことが大きいからな。
ただし、こちらの理論には一つだけ問題があるんだ。さっきの核戦争のくだりでもそうだが、優位な軍事力を背景とするにらみ合いを続けると、双方が軍拡を推し進めなくてはいけなくなってしまうことだ。
超大国同士が、地球を滅ぼせる核兵器を量産し続ける結果になってしまったのも、この考えの問題点と言える。
財政的にも大きな負担になるし、偶発的な衝突によって世界が滅ぶなんて結果を生みかねないほどのリスクもともなう。
実際、勢力均衡が崩れた瞬間に、大きな戦争が起きるのは歴史が証明している。
ウェストファリア体制崩壊後のナポレオン戦争。
ウィーン体制崩壊後のクリミア戦争。
ビスマルク体制崩壊後の第一次世界大戦。
ワシントン体制崩壊後の第二次世界大戦。
平和な時代にため込んだ軍事力というマグマは、破滅的な被害を世界にもたらす。
よって、この論文のまとめとしては「一時的なにらみ合いをおこなう場合には有効な考え方だが、どこかで出口戦略をおこなわなければ財政的な負担は増え続け、最終的には双方が壊滅しかねない軍事力の増強を招く。よって、交渉や融和政策など政府が責任をもって、緊張緩和を目指す努力を続けなくてはいけない」とした。
俺たちの世界ではある程度、普通の考え方だったが……
どうやらこちらの世界ではすさまじい発見だったらしい……
「それでは、学年主席のクニカズ・ヤマダ大尉。登壇を」
どうして、こうなった……
『おめでとうございます! センパイ!!』




