第38話 ホームレス、個室でイチャイチャする
「それでは、センパイ。今週もお疲れ様でした! 乾杯!!」
「乾杯!」
ターニャはレストランに入ると、なぜか個室が予約されていた。これは完全に計画されていたな。
まぁいいや。久しぶりの休日だし、いろいろ楽しまないと損だ。
さすがに、酒に酔って帰るとまずいので、俺たちはカシスジュースを注文し、料理を注文した。
久しぶりに魚料理を注文した。とはいっても、この時代の保存技術的に、魚料理は干物が中心だった。
タラの塩漬けの干物を、塩抜きしてトマトで煮込んだもの。
スモークサーモンのマリネ。
こんな感じ。
「さすがに日本食が恋しくなるな」
「それは、贅沢し過ぎってもんですよ、センパイ」
彼女は、いつになく楽しそうだ。食事を美味しそうに口に運んで、ひらひらと髪の毛を揺らしている。
「異世界で日本食を再現するのは、フィクションだけの話かァ」
「センパイは歴史好きだから、醤油の作り方くらい知っているんじゃないですか?」
「いや、作り方を知っていても簡単に作れるもんじゃないよ、あれは……」
よく俺が読んでいた異世界小説では、たまたま現地の民族が同じような調味料の作り方を知っていたパターンが多かったよな。
もともと醤油の原型は、大陸から日本に伝わった説が有力だ。奈良時代には、主醤という地位の役人が発酵食品を作るために設置されていたんだ。当時のそれは貴重品で給料の代わりや税として納めることも認められていた。とはいっても、それは俺たちが思う醤油とはまた別のものだったみたいだが。
鎌倉時代ごろにやっと「たまり醤油」の原型ができたんだ。
歴史と共に少しずつ一般化されていき、江戸時代になってやっと量産が可能になった。伝わってから、どんどん進化したとしても1000年以上の歴史が経ってやっと庶民が楽しめるようになったんだよ。
大豆は手に入っても、発酵に必要な麹菌を0から作り出すのは無理だろうな。
いや、待てよ。米麴は無理でも、麦麴ならもしかしてワンちゃん作れるんじゃないか??
「センパイ、歴史好きなオタクというのは伝わりましたけど、ちょっときもいです」
「おい!!」
あぶねぇ。そういえば、すべてこのダンボールの妖精には伝わっているんだ。
「たしかに、賢いセンパイはカッコいいですけど、デート中に一人だけ別の世界に行かれちゃ困りますよ?」
かっこいいといか簡単に言うなよ。勘違いしちゃうだろ。オタクは、知識を褒められるのが一番うれしいんだよ。
というかデートって……
「男女がふたりで遊びに来ていて、デートじゃないというのが無理がありますよね?」
「ぐぬぬ」
「ふたりでゆっくりできることなんてなかなかないじゃないですかぁ。だから……」
妖精は目をつぶって少しだけ甘えた声になる。
「今日だけは、私のことを見ていて欲しいなって?」