第34話 ホームレス、すべてを吹き飛ばす
自軍と敵軍はお互いににらみ合いを続けている。
「アリーナ大尉、防衛陣地はどれくらいできた?」
「理想形の80パーセントです。ところどころ、脆弱な場所がありますが……」
「それだけあれば、最高だよ。どこが弱いのか、図面で教えてくれるかな?」
「わ、わかりました。すぐに用意します」
「ありがとう」
あの短時間で、理想の80パーセントも仕上げてくれるとはな。戦場で100パーセント準備通りになることはめったにない。俺のシミュレーションゲームだって、うまくいくのはかなり幸運な時だけだ。
だから、8割完成していれば概ね目標達成と考えていい。
「リーニャ大尉。敵軍の挑発を継続してくれ。この防衛陣地があるから、こちらから仕掛けるわけにはいかない」
「ええ、弓矢と魔力を散発的に撃ちこんでいます」
「それに、1時間に1発でいいから、大砲も加えてくれ」
「えっ!? ですが、大砲の弾は高級品ですし」
「俺の世界であったんだよ。大砲の轟音で神経を衰弱させて、敵の心を砕いた先例がね」
大坂冬の陣で、徳川家康が大砲を何度も撃ちこんで大坂城内の豊臣秀頼軍の将兵を弱らせて強引に講和に持って行ったことがある。普通にやれば「10年は籠城可能」な日本史上屈指の要塞も、守る人間側の問題で講和せざるを得なくなってしまったんだ。
さらに、講和中に大坂城の堀を埋め立てられてしまい、最強の要塞は丸裸にされてしまった。
その後も数日間にらみ合いを続けていた両軍は、ついにポール大佐側から開戦してきた。
「相手も、士気の低下を看過できなくなったみたいですね」
リーニャ大尉はにやりと笑う。
「ああ、罠に入ってきてくれた。作戦通りに、前面の兵士は弓と槍を使って防御陣地を騎兵から死守してくれ。そして、左翼に配置しているあの部隊で射程範囲内に入った敵を吹き飛ばす」
※
―ポール大佐陣営―
『我が軍、順調に敵陣地に接近中』
『よろしい。たかが、堀と馬防柵でなにができる!! 騎兵の攻撃力をもって敵中央を切り崩し、敵を分断し、包囲殲滅する』
『敵兵、弓と槍で我が騎兵を攻撃』
『気にするな、僕の戦略に間違いはない。多少の損害が出ても問題はない。食い破れ!!』
『ダメです、敵の防御陣地が固すぎます』
『ならば、中央付近に兵力を集中。数で押す』
そこまで指示をして、戦場に轟音が鳴り響いた。これは爆発音。まさか、大砲か!?
『敵軍左翼から、魔導士と砲兵による総攻撃です。我が軍の前線が吹き飛んでいきます』
『なんだと!?』
この破壊力なら敵軍のすべての砲兵と魔導士を左翼に集めているのか? 大胆な作戦だ。
たしかに、守備力が薄い騎兵にとって、強烈な攻撃力を誇る砲兵と魔導士は天敵と言えるだろう。騎兵の射程外から攻撃が可能になるからな。でも、騎兵以上に防御力は薄い。たしかに、集中運用すればその分攻撃力が上がる。だが、守備力は弱く、そこを襲ってしまえば容易に勝つことはできる。
『我が軍の主力を左翼攻撃に回せ! 砲兵と魔導士さえ倒せれば、こちらの勝ちだ!!』