第32話 ホームレスの罠
「クニカズ大尉! 敵軍の進軍がストップしました! 作戦成功です」
リーニャ大尉が喜んで報告してくれる。
「よし。今のうちに迎撃の準備をしてくれ」
「すごい大胆なさ、作戦ですね、クニカズ大尉っ! まさか、大量の軍旗と少数の兵力だけで、大軍が突然目の前に出現したかのように偽装するなんて」
「ありがとう、アリーナ大尉。俺の世界では昔からある古典的な心理戦だよ。ほとんど労力をかけずに、時間を作り出せればいいんだ」
「まったく、戦場のペテン師だな、クニカズは」
クリスタは笑っている。
旗を使った偽装工作で有名なのは、上杉謙信と武田信玄がぶつかった第4次川中島の戦いだ。
武田軍の別動隊を使った包囲作戦に対して、上杉軍は旗などをもといた場所に残しその場にいるようにして武田軍主力に奇襲をかけたらしい。
まぁ、それは後世の創作説も根強いんだけど。成功すれば問題はない。失敗しても、兵士たちはすぐに逃げられるしあまり意味のない旗を失うだけだ。
そこで敵陣営の声が聞こえてきた。
※
『ポール大佐、どうしますか。無視するか、それとも攻めあがるか……』
『ううむ』
『早くしなければ、敵に包囲される可能性もあります』
『ええい、あれはきっと異世界の馬の骨の罠だ。あいつらは、僕たちをおびき寄せるために、何か仕込んでいるに違いない。ここは全軍、第一種警戒態勢で待機だ。奴らと我慢大会で、しびれを切らして攻めてくるまで待つんだ』
※
完全にはまっていた。俺たちの陣営では、みんなが笑い合った。
うまくいきすぎてるな。頭でっかちの指揮官とは聞いていたが、誰もフォローに入らないのか。
ポール大佐が戦略の最高権威ということも影響しているのかもしれないが……
やはり、指揮官の個人的な能力だけに頼るのは危険だよな。
リーニャ大尉が俺の耳元で小声でささやく。
「クニカズ大尉。これで数日は、ポール大佐の軍はあそこにくぎ付けにされます。今のうちに陣地を構築するとして……本当にこんな簡易な陣地で騎兵を食い止めることができるんですか?」
「いや、陣地だけでは無理だろうな」
「えっ!?」
「この陣地はあくまで対抗手段の補助に過ぎないんだよ。俺の本命は、別のところにある。戦場では、相手の意表を突くことと常に有利な状況を作ることが大事なんだ。だから、騎兵の攻撃力を上回るものをぶつけてやる」
俺はとある兵科を意味する駒をもって彼女に渡した。
魔導士を意味するビショップと砲兵を意味するルークだ。
「今日、俺はここに革命を起こす」