第3話 ホームレス、現状を確認する
翌日。
俺は、大主教様と朝食をとりながら、この世界のことを教えてもらっていた。
やはり、心配した通りこの世界は、俺が知るマジックオブアイアン5の世界と酷似していた。それも俺が恐れていたように、シナリオ1の世界だった。
ヴォルフスブルクは弱小国家で、周囲は敵だらけ。土地は豊かではなく、兵力を養うことはできない。だから、軍備は脆弱で常に周囲におびえている感じ。
女王ウィルヘルミナが優秀で、彼女の政治力と外交力をもってなんとか国を維持できている。
「やばいですね、もう滅亡寸前じゃないですか」
実際、このシナリオのヴォルフスブルクは本当に弱い。俺も慣れるまでは1年間(ゲーム時間でいえば10分)で滅亡していた。
「女王陛下だけが、我らの救いなのじゃ」
たしかに、シナリオ2以降の設定では、ウィルヘルミナ女王がヴォルフスブルクの中興の祖となっていた。
奇跡と呼ばれるほどの経済成長により、富国強兵を成し遂げて、大陸最強国家にのし上がっていくのがシナリオ2以降の内容だ。
俺たちは、味が薄い野菜スープを飲みながら、ため息をつく。
「大主教様は、女王陛下と面識があるんですか?」
「ああ、昔、教育係だったのじゃよ。彼女は、私の教え子の中でも最高の人材じゃったよ」
少しだけ希望は生まれたな。無能な自国の将軍ほど恐ろしいものはいないというし。
たとえば、悪名名高きインパール作戦。
日本軍が大戦末期にインドの都市・インパールを攻略しようとした作戦だが、指揮官の精神論によって補給を軽視し大損害を被った。「自動車不足で補給がままならないなら、牛で物資を輸送し、そのまま食料にしてしまう」という一見合理的な作戦に見えるが……
実情は、牛たちは長距離移動に慣れておらず、牛が食べる草もなく、そもそも扱い方が日本の牛と現地の牛で全く違うものだったせいで、牛が次々に脱落して補給路が崩壊するというお粗末な机上の空論だった。
だからこそ、この国のトップが優秀なのは希望が見える。
現状を考えても、女王陛下が優秀なのはわかる。自暴自棄になって実情を見ない軍備拡張をおこなって経済を破綻させていないからな。普通の指導者なら焦って国を自壊させているだろう。それをしていないというだけでも、政府の優秀さはよくわかる。
そもそも、国が滅べば、俺は完全に希望を失う。たいていの弱小国は強国に食われて、植民地となったら悲惨な運命が待っていると相場が決まっているんだ。景気は悪くなるし、産業構造だっていびつになる。長い長い不況に苦しみ、人々は生きるのが精一杯になってしまう。
そんな中で、身寄りすらない俺に待ち受けているのは死だ。誰も俺を助けてくれるわけがない。
なら、他国に移住するのは?
それも無理だ。そもそも、身分もよくわからない俺が国境を越えようものならスパイと疑われて殺される。
何もしなければ、国が滅んでゲームオーバー。
国から逃げることもできない……
なら、どうすればいいかなんて自明だよな。戦うしかない。
※
「青き魔力は、速さと知性を象徴する。お主はきっと異界の知識も持っているのじゃろう。今日は早く寝て、明日たくさんのことを私に教えてくれ。今日が世界の分水嶺になる。クニカズの顕現以前とクニカズの顕現以降で歴史はまるで変わるのじゃ」
※
幸運なことに、大主教様は俺のことを買ってくれている。この国を救いたいと言えば、たぶん喜んで取りなしてくれるだろう。
「あの大主教様?」
「どうしたクニカズよ?」
「俺、たぶんなにかしらの使命があるんだと思うんです。うまく思い出せないけど――たぶん、神父様に出会えたこと自体、運命なんですよ。神様は、きっと俺にここで何かをなせと導いたんです。だから……戦わせてください」
神父様は、感激して泣き出してしまった。
「おお、神よ。あなたの慈悲に感謝いたしますじゃ。まさか、こんな立派な救世主を導いてくださるなんて。救国の英雄とはクニカズのためにあるのでしょうね。ああ、救国の英雄の誕生した瞬間を目撃して、私は何も思い残すことはありません。ただ、感謝しかできない自分が情けないですじゃ」
いやいや、言い過ぎですよ。神父様? そもそも、俺ニートだったし……
ただ、生きていくためだけに最善手を選んだだけっていうか……
だから、そんなに泣かないでください。とっても申し訳なくなるから!!
※
「ふぅ、やっと泣き止んでくれてよかった」
俺は、大主教様が用意してくれた部屋で一息ついた。なんだか、いろいろありすぎた。
「どうなっちゃうんだろうな、これから?」
不安しかない。そもそも、才能はあっても俺は戦えるのか!?
『大丈夫ですよ』
また、あの声が聞こえた。俺を導いたダンボールの声だ。
どこにいるんだ?
『ここです。あなたの着ていた服のポケットですよ』
脱ぎ捨てていた元の世界の服が光っていた。
―――
登場人物紹介
山田邦和(ニート時代)
知略:73
戦闘:9
政治:65
とある事件をきっかけに25歳の時に会社を辞めて、それ以来ずっとニートを貫き通してきた。
口先と機転だけで家族の追及をかわしてきた腹黒い一面も。
大学時代は文学部史学科で、趣味は歴史シミュレーションゲーム。歴史オタクで暇な時間はゲームをするか図書館で借りてきた歴史の小説を読んで過ごしてきた。
しかし、口だけでは限界に達してしまいついに家を追い出されてしまう。