第269話 決着
「この虫けらがぁ」
触手は、俺に向かって振り下ろされる。まるで、意思があるかのように動くそれをなんとか楯でこらえた。
「死ね、死ね、死ね」
初撃はなんとか防ぐことができたが、連続攻撃によって楯は吹き飛ばされて、俺も衝撃波によって後退する。
『センパイ、あの触手は魔力に反応しているみたいです。自動的にこちらに向かってきます』
「あの速度で攻撃されたら近づけないな」
『……』
奏も沈黙してしまう。
「なぁ、奏。魔力って要は波みたいなものだろ?」
『そうです。この世界の人間は大なり小なり魔力を外に向かって放出してしまうんです。だから、あの攻撃を避けるには、魔力を放出せずに、近づくなんて……あの触手は見えない無数の魔力をあらゆる角度に向かって放出しています。それが他者の魔力とぶつかることで敵対者の場所を自動的に割り出して、自律攻撃が可能なんだと思います。特に、センパイのような強力な魔力保有者には相性がとても悪い』
「いや、方法はある。ステルス技術を応用しよう」
『ステルス技術?』
「ああ、レーダーに映らないステルス機は、電波を吸収したり、乱反射させることで、隠れることができる。俺たちの使っているダンボールの楯は、魔力無効化能力が高い。それをうまく使えば、疑似的なステルス能力を持つことは可能じゃないか?」
『やり方は?』
「ダンボールの楯に、四角錐形の突起を作ってくれ。そして、魔力の無効化能力をやや抑えて、突起で魔力が乱反射する状態を作れば……賢者の石は完全に沈黙する」
『わかりました』
俺たちを取り巻いていたダンボールの楯は一瞬にして改造される。アルフレッドたちにわかるように空中に魔力の花火を打ち上げる。この地点に対して、火力支援を依頼する。これで向こうは、俺以外の脅威にも対処しなくてはいけなく、処理スピードが落ちる。
空中から無数の魔力と砲弾が落下を始める。リーニャは事前に用意しておいた防空壕の中に避難した。完璧だ。
「なぜ、賢者の石が反応しないの?」
「さぁな」
触手は完全に沈黙しピクリとも動かない。
やはり、乱反射はうまくいったようだ。
「動け、動け、動けぇぇぇぇぇええええええっぇぇぇぇっぇ」
だが、アリーナの触手は完全に沈黙を続けている。
俺は諸悪の根源であり、もうひとつのアカシックレコードの象徴でもある賢者の石の変異体でもある触手を切り落とした。
「ぎゃあああぁぁぁっぁぁああああああ」
アリーナの断末魔が響き渡る。
切り落とされた触手=賢者の石は、地面に転がり、けいれんのような脈動を経て消滅した。
たぶん、明日最終回です!




