第262話 神出鬼没
「クニカズ、大変だ。宰相直属部隊が西方戦線に現れた。軍団長が戦死し、今はゴーリキー少将が西方戦線の指揮を執っている」
俺はアルフレッドの本陣にとどまり、情報を分析していた。さすがに、療養明けだから、出撃は禁止されているが、役立ててよかった。
「どういうことだ。宰相直属部隊は、旧ザルツ領内にいるんじゃないのか?」
「旧ザルツ領内にいるのは偽旗部隊かもしれないな」
「ゴーリキー少将は無事か?」
「大丈夫だ。かなりの被害が出ているようだが、守りに回って時間を稼いでいる。宰相直属部隊も、自軍の撤退までの時間を稼いで、風のように消えてしまったらしい」
「だが、宰相直属部隊は1万人はいるだろう。それが風のように消えるなんて、ありえない」
「おそらく、向こうも何かを隠しているのだろう。航空部隊が壊滅した中で、あえて殿を務めた。なにか策があると考えた方がいい」
その後の宰相直属部隊の行方はわからなくなったようだ。
アルフレッドが作戦指揮に戻ると、俺は奏を呼んだ。
「心当たりはあるか、奏?」
「はい、おそらく賢者の石でしょう」
「賢者の石?」
「西洋錬金術で、卑金属を金に変える霊薬ですよ。錬金術はそれを見つけ出すために発展したんです。私たちの元の世界では、結局、それを見つけることができずに、科学が発展したんです。こちらの世界では、逆にそれを見つけることができたから、魔力が発展した」
「その発見された賢者の石はどうなったんだ?」
「賢者の石をめぐる大きな戦争が発生し、戦乱の中で焼失したと言われていますが……異説はあります。賢者の石を発見した錬金術師によって、秘匿された製造法がどこかに眠っている。レプリカがある。いろいろありますが……」
「アカシックレコードの介入によって、敵陣営にそれがもたらされたと?」
「おそらく……私の力と加護も賢者の石の一種とされます。この世界のアカシックレコードが、その生成方法を知っているのは当然かと」
「賢者の石を持てばどうなる?」
「強力な魔力が与えられます。おそらく、宰相はそれを使っているはずです」
「瞬間移動のようなからくりはそれか……」
かなり厄介だ。ゲリラ的に強力な攻撃をどこにでも打ち出せる。敵の航空魔導士を排除しても、宰相を撃破しなければ、完全な勝利は望めない。
最終決戦の時間が近づいてきている。俺はそれを直感する。




