第26話 ホームレス、貴族の令嬢と密会する
しかたなく俺はリーニャ大尉を部屋に招いた。
いやだってさ、放置できないじゃん。開けてくれるまで廊下で待つような口ぶりだったしさ。
大丈夫だ、俺も一応は30歳超えの精神年齢。10代や20代のやんちゃ坊主とは違う。
一瞬告白されそうなセリフだった気もするけど、たぶん違う。フラグが立っているわけがない。
「とりあえず、ハーブティーでも淹れるよ」
備え付けのティーセットでお茶を淹れる。ミントティーはリラックス効果があるはず。これで、お互いにバカなことをしないようにしないとな。
俺たちはお茶を一口すする。うん、いい香り。お茶菓子でもあればよかったな。
「それで話とは?」
あくまでビジネスライクに俺は聞く。
「先ほどまでの態度を謝りたくて……」
「えっ!?」
殊勝な言葉が出ていて驚いた。
「いや、さすがに恥ずかしいというか……机上演習に負けて不貞腐れているなんて、まだまだ子供ですよね。私、学校や軍務ではどうしても他人を威圧してしまうので……」
1対1で話してみるとかなり性格が違うな。普段の彼女はかなり無理をしているのかもしれない。というか、この性格って女王陛下にそっくり。
「私の実家は公爵家で、女王陛下とは遠い親戚になるんですよ。年代も近いせいか、よく比べられてそれがプレッシャーになっていて……」
「そうなんだ……」
「それでクニカズ大尉に聞きたいんです。今回の机上演習ですが、私のどこがいけなかったんでしょうか。私は将来、武門の名門としてこの国を守る責務があるのです。ここで立ち止まるわけにはいかない」
やっぱり、彼女は女王陛下と似ている。責任感の強さだったり、気高さだったり……
だからこそ、ここで俺もこたえてやらないといけないんだろうな。年上のおっさんとして。
「そうだね。戦略や戦術の技術的な話もあるけど、俺が思うのはその責任感の高さかな?」
「えっ!?」
「今回の演習は、2人チームだったじゃないか。俺は自分が苦手な補給についての一切をクリスタ大尉に任せることで戦略と部隊の操作に専念できたよ。俺とクリスタは、足りないところを補っていたんだよ」
「あっ!?」
さすがは優等生だな。ここで気づくか。そう、彼女は忠告してくれたチームメイトに「うるさい! 黙っていなさい。あなたは最初にすべてを私に任せると言ったでしょ。撤退を。すぐに引き返します!!」と言って拒絶していた。
「でもさ、リーニャさんは、全部一人でやろうとしていただろ。戦略・部隊への指示・補給……忙しさのあまり、精神的な余裕を失って、俺の罠や後方かく乱に気づくことができなかった。だからこそ、囮部隊に引っ掛かり、後方のゲリラを過小評価して放置し軍を崩壊させてしまった。もし、チームメイトに頼ることができたら、俺の罠に気づけたかもしれないんだ」
彼女は再びうつむいてしまった。
「おっしゃる通りですね。私には余裕がなかった。士官学校主席のリーニャと呼ばれ続けたプレッシャーのせいで。軍事大学でも家の名誉を守るために、必死に勉強していた。でも、突然あなたのような異世界から来た天才が現れて、私は焦ってしまっていたのかもしれません」
彼女のプレッシャーは、元ニートの俺がとやかく言えるものではない。
「ねぇ、クニカズ大尉? もう少しだけ私の悩みを聞いてくださいませんか?」
彼女の瞳はうるみ、少しだけ首を傾げたその姿勢はなぜだか色っぽい女性としての美しさを感じさせる。