第259話 老将軍
「ネール将軍、お久しぶりです」
「まさか、本当に戦場で相まみえることになるとは思わなかったぞ。運命とはわからぬものだ」
「将軍、私が言いたいことはお分かりですね?」
「もちろんだ。無駄な抵抗はやめて、降伏しろと言うのだろう」
「はい、すでに戦況は明らかです。これ以上の犠牲は無用でしょう。すでに、こちらが包囲を完了しています。母国から遠く離れたここでは、あなた方を助けに来てくれる存在はおそらくない。頼みの航空戦力もほぼ壊滅したのでしょう?」
「うむ」
「我々、ヴォルフスブルク兵はあなたがた勇士たちに礼節をもって接します。ですから、これ以上の抵抗は……」
「わしは、軍人として最期にキミとアルフレッド君のような若き才能と戦えて光栄だった」
「閣下が残した対塹壕戦術は、後世に受け継がれると確信しております」
「希代の名将からそのような言葉をいただけただけでも、未練などなくなるものだ」
「将軍っ!!」
俺は必死に翻意を促す。
「勘違いするな、クニカズ君。すでに、兵には武装解除を命じている。老いぼれの旅に、皆を付き合わせるわけにはいかない」
「ならば、将軍も」
「それはできない。それが若者を死に追いやった老人の責任の取り方だ。さあ、飲もう。持ってきてくれているのだろう? 別れの杯だ」
その様子からすでに、遅毒性の薬を飲んでいることを察した。俺は持参したグレア産のウィスキーをスキットルから取り出して注ぐ。
「故郷の酒か。嬉しいな」
「本来ならば、お互いの健闘を称えるために持参したのです」
「名将と飲む酒はうまい。できることなら、味方にいて欲しかったよ。だが、良い人生だった。武門に生きて、武門に死ぬ。クニカズ君。無理はするなよ。こちらにはまだ宰相がいる。下手な戦力では奴に無効化される」
「国土の奪還が落としどころだと思います。それ以上は、こちらも望みません」
「うむ。それがいいな。祖国に乾杯」
最後にもう一度、酒を飲んで、老将軍は眠るように息を引き取った。




