第253話 乱戦
―名もなきヴォルフスブルク兵視点―
「いけ、一気に切り崩せ。敵主力をここで撃破すれば、失地奪還はたやすい」
アルフレッド将軍の檄が飛んだ。そうだ、今まで負け続けてきたんだ。圧倒的なスピードで負け続け、希望も故郷もどんどん消えていく絶望的な状況。ポール一派が実はクーデターを仕掛けていたなんて……あの情報を聞いた時はもう何も信じることはできないと思った。
だけど、クニカズ総監やアルフレッド将軍、そして、皇帝陛下は自らの信念を行動で示してくれたんだ。
自ら最前線に立ち、負傷しながらも敵航空エース部隊を撃破し、制空権を確保したクニカズ総監。
クニカズ総監の意思を継いで、巧みな戦略で、敵の動揺を誘い、戦局を逆転させたアルフレッド将軍。
重傷を負いながら、兵を励ますために、自ら出陣し前線に赴いてくれた皇帝陛下。
上の人たちにここまでされて、士気が上がらない兵士はいない。
「いけ、祖国を取り戻せ」
「ここで頑張らないで、どうする」
周囲からは声が飛んでいる。
だが……
「大変だ、敵航空部隊の編隊を確認。数、60」
「なっ……」
俺たちは絶望に包まれる。敵も主力部隊壊滅の危機を脱するためにリスク覚悟で、航空部隊を投入してきたのだ。
「ちぃ、あげられる魔導士は何人いる」
アルフレッド将軍は幕僚たちに確認を始める。
「各地でエアボーン作戦に従事しているため、すぐに来ることができるのは20ほどかと」
将軍は苦々しい表情を浮かべた。クニカズ総監がいない状況では、人数が足りないと判断したのだろう。
「地上部隊を中心にして、敵航空部隊を迎撃する。対空戦闘用意っ!」
こちらの対空砲と魔導士たちが集中しはじめる。ここで止められなければ、敵の主力部隊を逃がす結果になるのは明らかだ。
「将軍、我が領内から、高速でこちらに向かってくる存在を確認」
「数はいくつだ。味方の増援か?」
「識別魔力から判断すると、こちら側。数1。クニカズ総監のものです」
『おおっ』
わずか1名の増援にもかかわらず、味方陣営に歓喜の声が響いた。
「しかし、いくらクニカズ総監でも、1名では多勢に……撤退をさせたほうが……」
「いや、クニカズが来ていると分かれば、地上部隊の士気はさらに上がる。おそらく、敵の60の航空魔導士には、エースが含まれていると思うが……クニカズなら大丈夫だ。交戦を許可する。世界最強の航空魔導士のレベルを披露してやれと伝えてくれ」




