第248話 浸透戦術
「アルフレッド将軍、敵がこちらの塹壕に散発的な攻撃を仕掛けてきます。少数の兵力が、分散して塹壕に近づき、反撃されると撤退を繰り返しています」
「なんだと!?」
何かの陽動か。しかし、策がなければいたずらに兵を消耗するような作戦だ。裏に何かあると考えた方がいいだろう。奇襲攻撃……
まさか……
「東端の塹壕に連絡しろ」
「ダメです、連絡がありませんっ」
「くそっ、やられたか」
「何が起きたのですか?」
「おそらく、奴らは対塹壕戦術を使ったんだろう」
「対塹壕戦術?」
「ああ、先ほどの集中砲火もその布石だ。敵は奇襲攻撃を使って、こちらの防御が弱い場所を探っていたんだ。守備力が厚い場所を迂回して、薄い場所を攻める。その薄い場所を洗い出したら、少数の精鋭部隊が、支援火力の援護を受けて、防御の薄い場所を攻めて、制圧するんだ。精鋭部隊には少数の魔導士を加えておき、塹壕に接近したところで爆発魔力を使えば……」
「塹壕が制圧可能だと……?」
「現に東側の塹壕の一部が連絡を絶っているなら、その可能性が高い」
「いかがいたしますか……」
「……くっ」
俺は決断を迫られる。
※
「ネール閣下。敵の右翼側の塹壕の制圧を確認。我らの勝利です」
「うむ、だがこれは局地戦にすぎん。制圧した塹壕に兵力を送り込み、こちらの陣地として活用しろ。決して油断するな。取り返されては意味がない」
「はい!」
我ながら非人道的な作戦だ。やっていることは人命を数字としかみないようなことだ。突撃を命じられた兵はほとんど死を意味する。だが、塹壕を制圧できれば、それを上回る戦術的な意味を作り出せる。彼らの若き英雄の死を無駄にしない。
アルフレッドは名将と聞いている。航空戦力を使うか、塹壕を捨てて決戦か。どちらかの選択を迫られているだろう。この浸透戦術を使えば、敵が狙う持久戦は難しくなる。
巣穴からでなくてはいけなくなってきたはずじゃぞ、若造?
決断を迫り、決戦になれば、勝てる。倍の人生を歩んできた軍人の覚悟を見せてやろう。




