第238話 超越者の思惑
―アカシックレコードー
「これはまずいな」
クニカズの様子を確認しながら、自分の思惑とは別の方向に歴史が向かっていることを実感し憂鬱な気分となる。やはり、ダメだったか。歴史とは無数に枝分かれする。その枝分かれした世界は結局、停滞からの破滅に収束する。その破滅への収束から逃れるために彼を投入したわけだが……
それは別世界のアカシックレコードの介入を生んだ。
アリーナと呼ばれる女は、間違いなく別の世界のアカシックレコードの影響を受けている。そして、クニカズを追い詰めているこの戦法は、アカシックレコードの介入の余波を受けて編み出されたものだろう。
飽和攻撃。
クニカズの魔力障壁も完璧ではない。彼を守る楯はついに貫通した。魔力障壁を失ったクニカズは、無防備に複数の攻撃にさらされて黒煙に包まれた。
「ここまでか……」
あくまで観測者に徹するか。
私は超越者であっても絶対者ではない。あの世界で死んだ者を生き返すこともできない。さらに、クニカズを送り込むような介入は、そう何度もできない。
彼の死は、こちらにとっても大きな損失なのだ。
しかし、事態は私の思惑を超える結果を生み出すことになった。
『世界記憶装置、セーフティ解除……』
私が遣わした妖精の声が聞こえた。
まさか、気づいていたのか?
あのシステムに?
だが、それを使えば、お前たちはお前たちではいられなくなる。アカシックレコードへのアクセス権の安全装置を解除すれば、下手をすれば世界すら終わらせかねない。
『生存領域、解放確認』
『共感覚領域、接続確認』
クニカズの生存本能を極限まで上げて、知覚領域を拡大させる。そして、人間の限界を超えようとしている。
『意識領域、アリアドネの糸からクロノスタシスへと到達』
極限まで知覚領域を拡大させることで、時間の概念すらねじ曲がる。彼女は、本来なら到達不可能な時間概念を超える領域までクニカズを押し上げようとしている。ミノタウロスが座する迷宮を攻略するための糸を模して。
『誘導装置、別人格へと変換』
ここで妖精は本来の力と記憶を完全に取り戻す。それが二人の運命を変えることになっても。
『モード:アイギス始動』
あらゆる災厄を払いのける存在が誕生した。
明日は更新お休みです!




