第237話 飽和攻撃
俺が距離を詰めようとすると、遠距離攻撃が飛んでくる。俺はダンボールの防壁を使って防いだ。ここまでは想定通りだ。だが、俺はどうしても足を止めなくてはいけない。
そこを3人の近接戦闘要員が一撃離脱戦法で削りに来る。
剣で攻撃をいなし、ギリギリのところでかわす。しかし、これは後方部隊の詠唱時間を稼ぐための行動だ。準備が整えば、すぐに離脱して俺は長距離攻撃に襲われる。
「ちぃ」
舌打ちしたながら防戦に回る。
「(センパイ、大丈夫ですか?)」
「まずいな、飽和攻撃の一種か」
飽和攻撃。簡単に言えば、防御側の処理能力を超える数の攻撃をこちらに向ける方法だ。
一斉に攻撃を受けても俺は処理が可能だ。それは何度も実戦で体験している。だが、今回のように休む時間なく魔力→近距離攻撃→魔力→近距離攻撃……と攻め続けられると、俺を守る楯の強度が削られていく可能性がある。
俺は個人技でここまで活躍してきた。だが、相手はチームワークで個人の限界を狙ってきている。一度に複数の攻撃には対処できても、連続して永遠のように続く攻撃に耐えることは難しくなる。正確な処理は疲労と緊張で徐々に難しくなる。
そして、限界が訪れた。
ほんの一瞬の油断だった。本来なら避ける選択肢を選ぶべき所で、俺は防壁を選んでしまった。
魔力攻撃で耐久が低下していたダンボールは、敵の剣に貫かれる。俺はとっさに防壁を突破した剣を身をよじってかわす。
だが、それはあくまで攻撃の第一段階だった。防壁を失った俺に対して、複数の魔力攻撃が襲いかかってきた。それは無慈悲に俺をとらえている。
「(センパイっ!!)」
人生の最期に聞いた声は、なぜか懐かしい後輩の声だった。
痛みと爆発によって意識は暗闇に飲まれ落ちていく。
※
―ゴールデンホーク指揮官―
「これが英雄の最期だ」
魔力の集中攻撃は、史上最高の天才をとらえていた。
ヴォルフスブルクの急速な発展を支えた男の最期かと思うと感慨深い。これで戦争は終わる。ヴォルフスブルクは解体され、グレアが超大国として君臨する世界の出来上がりだ。
『世界記憶装置、セーフティ解除……』
クニカズの体が黒煙に包まれた瞬間、女の声が周辺に響いた。
『生存領域、解放確認』
『共感覚領域、接続確認』
女の声は淡々と意味の分からない言葉を並べていく。
『意識領域、アリアドネの糸からクロノスタシスへと到達』
『誘導装置、別人格へと変換』
『モード:アイギス始動』




