第235話 最大の航空戦
―ロダン高原上空(名もなきグレア帝国航空魔導士視点)―
「いけ。クニカズが来る前にこちらの空域を抑えるんだ」
上からの命令が飛んでいる。
すでに、両軍が入り乱れた空中戦が発生している。僕の担当は地上攻撃だ。ロダン高原北方の後方にいる敵陸軍を爆撃することだ。航空戦力の数ではこちらが勝っているはず。集団戦法で技術力に優れるヴォルフスブルクに対して対抗して戦況を優位に進めていた。
対空部隊が作った活路によって、すでに10人程度の地上攻撃班がヴォルフスブルクの防衛線を突破し攻撃に向かっている。
目の前で2つの爆発が発生した。
「よしやったぞ」
部隊の誰かが声をあげた。明らかに地上部隊への攻撃が成功した瞬間だった。敵の布陣前に戦力を削り切れれば、それだけ有利になる。
「前の部隊に続くぞ。一気に進め」
「おおっ!!」
爆発によって士気が上がる。ここで手柄を立てれば英雄だ。英雄。その単語に若い血が騒ぐ。僕も手柄を立てれば……
隊長たちが先攻する。ぼくたちもそれに続く。敵の地上部隊にもうすぐ迫る。その瞬間だった。
先行していた隊長たち2人の体は突如、爆発し黒煙を上げながら地上へと落下していく。
「えっ!?」
僕たちは思わず空中で止まってしまった。次席指揮官の副隊長は後方にいる。隊長が撃墜された今では彼の指示を聞かなくてはいけない。
「副隊長!!」
誰かが叫んだ瞬間、僕の近くを高速で魔力が通過していった。精確な狙撃が副隊長に直撃し、隊長と同じ運命をたどらせる。
「悪魔だ。ヴォルフスブルクの悪魔だ」
ありえない距離から放たれた狙撃の魔力痕が悪魔と一致する。
「にげ……」
さらに攻撃が追加される。1本の魔力線が俺たちの元にたどり着こうとした瞬間だった。魔力の攻撃が分裂してこちらを襲う。同僚たちは次々と光に包まれる。そして、黒い炎に包まれていった。
死ぬ。そう思った瞬間にはもうどうにもならない。すべての動きがゆっくりで避けようとする自分の動きもまるで止まってしまったかのように固着する。
だが、僕に迫っていた攻撃は直撃する寸前で真っ二つに切断された。
「大丈夫か、少年?」
「は、はい」
僕の目の前に立った男の人の左腕には金色の鷹のマークがほどこされている。
「悪魔は我々に任せて引け」
「黄金の鷹部隊っ!」
エース部隊同士の戦いが始まろうとしている。




