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第234話 ロダン高原の決戦

―グレア帝国防衛研究所著『第一次大陸戦争史』より引用―


 第一次大陸戦争における最大の激戦であるロダン高原の決戦については、グレア帝国側・ヴォルフスブルク帝国側の両陣営から膨大な証言が伝えられている。ロダン高原の決戦が戦争の勝敗を分けたというのは、後世の歴史家の標準的な見解であり学説化している。


 この激戦においては双方に膨大な戦死者・戦傷者を発生させた。


 後にグレア帝国の航空戦力の権威となったガダラン将軍はこう語る。


「私はロダン高原の決戦時においては、まだ士官学校を卒業したばかりの少尉でした。当時はまだ航空魔導士の黎明期で、両軍ともに手探りの状態だったと思います。私も学校ではあまり多くを学ぶことができませんでした。しかし、敵側のクニカズたちは違います。彼はまだ黎明期だった航空魔導士と言う兵科について深い理解と考察を持っていました。あの戦争から数十年後に生きる私でも、おそらく彼の領域には達していないはずです」


「将軍はロダン高原の決戦においてどのようなことをなされたのですか?」


「私は偵察兵でした。まだ、戦力ともいえない弱兵で、敵と遭遇した場合はすぐに逃げろと言われていましたね。最大の激戦地であるロダンには双方のエース級魔導士がそろっていましたよ。あの空域においては、階級や名声なんて関係ない地獄です。相手をしている航空魔導士が自分よりも実力者なら問答無用で撃ち落とされる。少しでも気を抜けば、敵の地上軍の反撃にやられる。自分の実力しか信用できない過酷な状況で、運まで絡んでいました。航空魔導士たちは、あの空域を"エースの墓場"と呼んでいたことを今でも覚えています。血に飢えた狼たちが、お互いを殺し合う蟲毒(こどく)のような環境でした。どんなに実力を持ったポテンシャル豊かな魔導士でも、次の瞬間には火球に包まれてしまう。あの戦場には、まだ回収されていない両軍の英霊たちの遺体が埋まっているとも聞きます」


「……」


「そして、その中でも妖精の加護を受けたふたりは異彩を放っていた。クニカズの前にクニカズなく、クニカズの後にクニカズなし。よく言われる言葉ですが、本当の意味はあの戦場で彼を見たことがある人だけしかわからないでしょうね」


 将軍は自嘲気味に笑った。まるで、神の持つ理不尽さを説明するが如く。

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