第232話 ネール陸軍大臣
―グレア帝国遠征軍本陣(総大将・ネール陸軍大臣視点)―
「閣下。クニカズが起こしたクーデターによりポール将軍は失脚し死亡が確認されました。女帝派が復権し、すべての指揮権を奪取したようです。いよいよですね」
「ああ、そうだな。さすがにクーデターによって自壊してくれればよかったんだが、そうはならなかったか。どうやら、さらに血を流す必要があるようだな」
わしはクーデターの成功を残念に思いながら、つぶやく。やはり、うまくやったか。クニカズは。
あの外交儀礼のパーティーの際に会談しただけだったが、傑物だと思った。60年以上生きてきた中で、敵ながら最も才能を感じた軍人は彼だった。
まるで、数百年後の未来を生きているかのような才能と発想。できることなら戦いたくはなかった。今回のクーデター騒ぎでお互いの戦力を消耗してくれればよかったのだが……
結果を見れば、クニカズの方に支持が集まりポール派は簡単に崩壊した。ほとんど戦力を消耗することなく、クニカズは自国の軍をすべてまとめ上げたことになる。
本来であれば、この好機を逃したくはなかった。全力で敵の南方方面軍の防衛線を叩き、一部を瓦解させることでその奥にいる敵の中央軍を壊滅させる。そうすれば、クニカズが政権を奪取してもすぐに崩壊するはずだった。だが、南方方面軍は善戦し、要衝であるロスブルクで徹底抗戦を仕掛け、クニカズのことを助けるかのように時間を稼いでいた。まるで、自分たちが犠牲になっても、クニカズなら国を救ってくれる。だからこそ、彼のために時間を稼ぐ。そんな意思を強く感じていた。
ロスブルク陥落まで2週間を費やしてしまったことで、歴史は大きく変わってしまっただろう。ロスブルクをすんなり落とすことができたのなら、クニカズは悲劇の英雄になっていたと思う。
だが、ここで負けるわけにはいかない。あのようなひよっこたちに負けているようでは、死んでいった戦友たちに申し訳が立たない。すでに、宰相の切り札はこちらに派遣されている。ならば、毒は同じ毒を以て毒を制すしかない。
数の上ではこちらが有利。ただし、敵は戦意豊富でアルフレッドとクニカズが率いている。もはや、ポールが率いていたヴォルフスブルク軍とはまるで違う軍隊と考えた方がいい。
次の決戦が、本当の意味で天下分け目の大決戦。ここで勝利した方が大陸の覇権を握ることになる。生涯最後の大決戦か。血沸く。
「全軍、ロダン高原に向かう」
ついに、決戦の地に両軍は集結していく。
明日は更新お休みです。




