第229話 ポール陣営の動揺
「くそっ。逃亡兵が止まらない」
すでに帝都がクーデター軍によって陥落し、クニカズと女帝の婚約が発表されたことによってこちらは政治的な敗北を喫した。
クニカズ陣営によって賊軍とみなされた我が軍勢は、前面にグレア帝国軍。後方にクーデター軍という最悪の状況に陥っている。こうなってしまえば、兵士たちはこちらに従う必要はないと言って逃亡しクニカズ陣営に合流している。
さらに、息子のラドクリフは……
クニカズに敗れて火あぶりにされたようだ。苦しみながら死んだ息子のことを思うと胸が張り裂けそうになる。
こんな状況だ。誰が裏切り者かもわからない。精神的に限界が近づいている。幕僚たちもお互いをお互いに監視しているような状況だ。
「ポール将軍。ブランソン参謀が怪しい動きを見せています。おそらく、我々を裏切ったクニカズ陣営のスパイかと」
「それは本当か。アリスト少将?」
「はい、間違いありません」
「すぐにブランソンを逮捕しろ。即刻処刑してかまわない」
ブランソンはその夜に魔力で処刑された。
※
翌日、アリスト少将はまた俺に告げる。
「将軍、大変です。マウリ師団長が怪しい動きをしています。もしかすると軍団ごと寝返りを考えているのかもしれません」
「処刑だ。すぐに殺せ。指揮権は俺が執る」
「かしこまりました」
どうして、皆、俺を裏切るんだ。
※
「ポール将軍、大変です。首都のクニカズ軍が動き始めました。こちらに向かってきます」
「……ああ」
「いかがいたしますか」
「少し黙ってくれ、アリスト少将」
「しかし……」
「そうか、そういうことか。さては、お前も裏切るんだな。クニカズがこちらに来るなんて嘘だろう? そうか、お前がスパイならすべて納得できる。アリスト少将、お前を裏切り者として処刑する」
「何をおっしゃっているんですか?」
「詳細は昨夜、ムーラン将軍から聞いている。お前は私に同僚たちのあらぬ疑いを吹き込み、集団のまとまりを阻害した。死を持って償え」
「お待ちくださいっ」
「ならん。これ以上言い訳を重ねるなら斬るっ」
「ちぃ」
私が剣を抜くとアリスト少将も抵抗しつばぜり合いとなる。アリスト少将の剣は宙を舞った。
「やはり、お前はスパイか。死を持って償え」
「誰か、ポール閣下が乱心した。助けてくれっ」
「問答無用」
「くそっ!!」
短刀を取り出して、苦し紛れの抵抗を見せる。
「うおおおおおおお」
こちらの剣がアリストに届いた。アリストは何度かけいれんし動かなくなった。
「はぁはぁ、スパイめっ」
「閣下、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
「しかし……」
「なんだ?」
「短刀が脇腹に……」
部下にそう指摘されると、俺は左わき腹に痛みと熱を感じた。
少将の短刀が、私の腹を貫いている。
「こんな死に方、認めない……」
その言葉をトリガーにして私はゆっくりと意識を失っていった。




