第227話 逆プロポーズ
その言葉を聞いた瞬間、世界が硬直した。
「何を言っているんだ?」
俺は辛うじてその言葉を返すのが精いっぱいだった。
「驚くのは当たり前だと思います。しかし、あなたがやったことはクーデターに間違いない。それも敵軍が首都に迫っている状況で、です。普通に考えれば亡国への道を突き進んでいるでしょう。私が旧宰相派との権力闘争から暗殺未遂が起き幽閉されてしまう。実権を握ったポールは外交の選択を誤り大国との全面戦争に突入した挙句に、首都付近まで敵が迫っている。さらに、そこへ来てのクーデターです。いくらあなたが首謀者でも間違いなく兵は動揺する。さらに、敵軍から見ても軍事力で政権をもぎとったクニカズのような不忠の者を排除するという口実を与えることになる」
「そうですね。いくらウイリーが前に出てきても、傀儡政権のそしりは免れない」
「そうです。だからこそ、物語が必要なのです。皆を納得させるためのストーリーが……私はそれには結婚が必要不可欠だと思います」
「なぜですか!? そんなことをしたら俺は力を背景に無理やりウイリーと結婚した最低の男じゃないか!」
「わかりませんか? 私とあなたはすでに噂になっているのです。王宮でも、あなたは私と面会ができる異例の存在だった。実際、何度も密室で二人きりで会っているじゃないですか。身分差を超えた愛。それはある意味で、人を引き付ける噂になる」
「……っ」
「すでに、あなたがある程度の証拠はつかんでくれているのでしょう? なら簡単に民衆をひきつける噂は作れます。あなたは愛する人を助け、私が愛する国を守るために売国奴を排除した。そういうストーリーは簡単に出来上がります。そして、皆はそれを信じてしまうでしょう」
「ウイリーはそれでいいのか、俺なんかで?」
「私は国家と結婚しました。それが答えです」
「……」
彼女の答えに俺は思わず圧倒されてしまう。自分の幸せなどよりも、国家の存続と繁栄を優先させる。俺よりも年下のはずだが、その気迫はまるで王者の風格すら感じられる。
「わかった。よろしく頼む」




