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第22話 ホームレス、ゲリラ戦を展開する

「さぁ、クリスタ大尉。一気に反撃だぞ!」

 俺たちは、湿地帯の勝利で一気に士気を上げる。

リーニャ大尉の主力軍は3000人以上の損害が発生している。およそ、10パーセントの戦力を失ったとみていい。大損害だ。


 とはいっても、まだまだ数的には不利だ。だから、専守防衛に専念する。

 向こうが迂回(うかい)して、首都を攻撃しようとしても各所に設けた守備陣地による猛烈な反撃が発生する。高い山、大河、湿地帯。地形は天然の要塞だ。


 地形を利用することで、防御陣地は簡易なものでもリターンは大きいものになる。

 さらに、クリスタ大尉の天才的な事務処理能力で必要な場所に必要な物資が届けられる。逆に敵は攻勢がくじかれて一気に士気が低下しているようだった。


「どうして……こっちが優勢だったはずなのに――進軍が完全に止まっちゃう……」

 これで作戦のフェーズ2は完遂した。


 フェーズ1は「うまく撤退し、敵を防御陣地まで誘導する」

 フェーズ2は「強固な防御陣地で敵に大損害を与える」


 ここまででも敵にとっては悪夢だろう。だが、まだ悪夢だ。ここからが地獄になる。


「くぅ、こうなったら全軍を一点に集結させて、強引にでも突破するしかない! アルテミス砦へ全軍を集結させて!」

 しかし、その命令が完遂することはなかった。教官の無情な言葉がリーニャ大尉を襲う。


「リーニャ大尉軍、物資不足により士気及び継戦能力低下。以後、問題が解決しない場合は自動的に能力が低下し、逃亡兵が発生する」


「なんで!?」

 いつもは丁寧な口調の彼女が声を荒げた。

 ようやく気が付いたな。


 俺たちが配置した山岳ゲリラに。

 これが毛沢東(もくたくとう)流の『遊撃戦論』の発展形だ。毛沢東といえば中華人民共和国の建国者である政治家と思う人も多いかもしれない。だが、俺は彼の本質は軍人だと思う。


 毛沢東が中国共産党を率いていた時、彼はふたつの巨大な国家と戦わなくてはいけなかった。日本と蒋介石が率いるもうひとつの中国・”中華民国”である。


 数的な劣勢を覆すために、彼はゲリラ戦に特化した。そして、その実地で学んだ戦略を記したのが著書『遊撃戦論』だ。これは現代でもゲリラ戦の理論的な基礎となっている本で、超大国アメリカがベトナム・アフガニスタンで辛酸(しんさん)をなめなくてはいけなくなったのも、このゲリラ戦を倒すことができなかったせいだ。


 そして、俺はその本を図書館で借りて読んでいた。主義主張は相いれないが、戦略論としては一級品なので読んでおいてよかった。

 ゲリラ戦と簡単に言っても、それを実践するには困難が伴う。

 俺が考えるゲリラの弱点は……


①貧弱な武装で、正規軍と正面からぶつかっても勝ち目が薄いこと

②柔軟な指揮が求められるせいで、どうしても現場指揮官の能力に影響されやすく、組織全体で動くことが難しくなること

③物資の補給が難しく鹵獲(ろかく)をおこなわなければいけないので、不確実性がたかいこと


 だから、俺は国境付近の山岳地帯に精鋭部隊を配置し、敵軍が自国奥深くまで侵攻した後に蜂起。

 物資を鹵獲可能で軽装の輸送部隊を中心に襲いゲリラ戦を展開していた。

 正面の華々しい戦いの裏で、少しずつ敵の輸送路をゲリラ部隊が潰していたんだ。輸送部隊護衛のために、前線から主力部隊が送られてきたら、すぐに山岳地帯に逃げ込んで、すきを見て再び輸送部隊を襲う。


これを繰り返すことで敵の補給線をずたずたにに引き裂いた。さらに、敵はこちらの防衛陣地に無茶な突撃を仕掛けた影響で物資がかなりすりつぶされている。補給線が崩壊した軍隊に残るのは崩壊だ。


「地獄へようこそ、リーニャ大尉?」


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