第219話 もう一人のアカシックレコード
「つまり、お前とは別の存在である神のような存在が、グレア帝国に肩入れしているってことだな。アリーナに妖精の加護を与えたのは、そいつで……お前とそいつは対立しているのか。でも、なぜだ。なぜ、アカシックレコード同士で対立するんだ」
「アカシックレコードとは言わば、集合意識の塊だ。一つに見える存在でも、別々の目的があるんだよ。僕はキミをこの世界に呼び寄せて、この先の未来にある閉塞を打破しようと思っている。僕の目的は、科学文明でも魔力文明でも発生してしまう世界の停滞を抜け出すことにある。それは嘘じゃない」
「俺は科学文明も魔力文明も両方知っている存在だ。つまり、お前と近い目線に立つことができているってことだよな。だが、お前と対立しているアカシックレコードはそうではない。たぶん、立ち位置は魔力文明側だけにあるってことだよな?」
「うん、そうだね。おそらく向こうの考え方は僕と違うよ。向こうはまだ、希望を持っているんだ。この世界にも。僕の考えた案ははっきり言えば劇薬さ。キミというふたつの世界を生きた人間を招き寄せて、強引な変革を迫るやり方だ。もちろん、反発も多いさ」
「向こうの言い分はこういうことだろう? 世界にはまだいくつも選択肢がある。劇薬に頼らずに、対処できる道を探したい」
「そう。実際、キミは航空魔導士と空母の存在を数百年早くこちらの世界に持ち込んでしまった。キミは強引に時計の針を進めてしまったイレギュラーな存在なんだよ。だから、排除されなくてはいけない。キミを排除できるのは、僕と同等の妖精の加護を受けた存在だけだ。そして、彼女は選ばれた。彼女は時計の針を元に戻そうとしているんだ」
「なんだよ、それ……」
「僕にはキミをこちらの世界に引きずり込んだ責任がある。これはゲームじゃない。死んだら終わりだ。キミの意思を尊重するよ。もし、元の世界に戻りたいなら……」
「そんなことじゃない。俺はそんなことを聞きたいんじゃないんだ。もう戦争は始まってしまった。このままなら死んだ者たちは報われない。グレア帝国が目指しているのは、ヴォルフスブルク誕生以前。つまり、この世界における現状維持だよな? 行きつく先はどうなるんだ」
「数百年後に核戦争、もしくはそれに準ずる大規模戦争になりすべてが灰になる。世界は変わらない」
「なら、そんな腐った世界。変えてやるよ」
「ふふ、楽しみにしているよ。でも、そのためにはこの狂った世界でどう生き残るかだね」
そう言うと、アカシックレコードは少しずつ消えていった。




