第214話 強襲
―9月18日未明 航空巡洋艦・ベール甲板上―
ついに反攻作戦ののろしがあがった。グレアの大規模地上空爆部隊は、こちらの反撃で大損害を負ったはずだ。
俺は自分の権限でできる限りのことをする。まずは、持ちこたえている西方方面軍の援護だ。グレアは西方方面軍の補給路を断つために海上封鎖に乗り出す腹つもりのはず。向こうに潜伏している情報局員たちからの情報では、北部最大の軍港であるブルーストに北洋艦隊主力が集結していると連絡があった。
これを放置すれば戦線が崩壊する。
だからこそ、切り札を投入する。
世界で初めて航空魔導士を支援するために建造された航空巡洋艦・ベールを戦線に投入する。この軍艦は、前世で言うところの空母的な役割を担うために俺主導で建造した。
ただし、航空魔導士は戦闘機と違ってスペースを多くとるものではない。だから、全通甲板や飛行甲板のようなものは不要だ。ベールも普通の軍艦と同じようなシルエットになっている。これによって敵国のスパイたちの目もごまかすことができた。
誰もこの軍艦が航空魔導士運用に特化したものだとは気づいていない。
だが、強力な魔石を積みこむことで可能となった遠距離魔道通信や最も魔力を使う浮上を補佐するカタパルトを備えている。
帰還時に母艦を見失うのが最も危険だが、魔道通信によってそれを防いでいる。現在の常識では、航空魔導士は戦艦を撃破することはできないと言われている。そう以前までの常識ではそうだった。だが、ゲームの常識は簡単に覆る。
航空機では戦艦を沈めることはできない。第二次世界大戦が起きるまでの軍事の常識はそうだった。だが、タラント空襲でイギリスの航空母艦「イラストリアス」から発艦した航空機がイタリア海軍の戦艦3隻を撃破した。その際に発生した損害は、航空機がわずか2機だったとされている。
そして、日本軍のパールハーバー攻撃・マレー沖海戦で戦艦は時代遅れの兵器に変わっていった。
俺はこちらの世界でその軍事革命を起こそうとしている。
すでに甲板には部下がそろっていた。
「諸君、今日、俺たちは革命を起こす。我々は、これよりグレア帝国北洋艦隊の拠点であるブルーストを強襲し、敵艦隊をせん滅する」
時代は少しずつ動き始めていった。




