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第209話 守勢

「クニカズ、大変だ。帝都ベールが攻撃された。弾薬庫が炎上しているようだ」

 クリスタが俺に戦況を報告してくれる。やはり、グレア軍は旧ザルツ領を掌握しても、北上を続けているようだ。さらに、ザルツ領を掌握したことで敵の航空戦力がヴォルフスブルク領内全土を攻撃可能な状況になってしまった。戦意を上げるためにもグレアは敵首都の攻撃に乗り出したということだろう。


「そうか。被害はそうでもないかもしれないが、こちらの心理的な動揺は大きいだろうな」


 実際、自国の首都が攻撃にさらされるのは士気に関わる。わかりやすい例が、太平洋戦争中に発生したドーリットル空襲だ。連敗を続けていたアメリカ軍は、かなり強引な手段で東京を空襲し日本に激震を走らせた。


 実際、戦果はそこまででもなかったが、連敗続きで士気が低下していたアメリカ軍はこの軍事的なデモンストレーションに沸き上がった。逆に、日本軍は爆撃機が発艦した敵の空母せん滅をおこなう必要が発生し、ミッドウェー海戦に引きずり込まれる遠因になった。


 このまま中央が勇んで決戦に挑もうものなら、おそらく空母4隻を一斉に失ったミッドウェー海戦の悲劇を繰り返すことになるだろう。そうなれば帝国は終わりだ。


「クニカズ、グレア北洋艦隊にも近々動きがあるみたいだわ。西方方面軍が陸上部隊はうまく足止めしていて戦況はこう着しているけど、海上封鎖が行われてしまえばこちらはじり貧になる。どうする? 北方方面軍としては、西方方面軍と協力して迎え撃つ?」


 中央は、「動くな」と厳命してきているが……


 敵の北洋艦隊の相手や西方の援軍ならば辛うじてこちらの所掌範囲ともいえなくない。いざとなれば現場の判断で動く。


 だが、まずは……


「おそらく、こちらにも敵の空爆があるだろう。まずは、対空陣地を強化してくれ。敵の航空戦力を迎え撃つ」


 帝国全土が戦場となる瞬間が迫っていた。

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