第202話 黒幕
―??視点―
ついに、帝国建国記念の集会がはじまった。自分は、帝国の一員としてその様子を見つめる。ここは演台を見通せる監視台。絶好の狙撃ポイント。記念式典では女王陛下が挨拶をすることになっている。君主としては当たり前のことだ。だからこそ、狙いやすい。ポールはこちらの思惑通り動いてくれた。優秀な盤上の駒だった。もう必要はないけどね。
クニカズを中央から遠ざけることができたのは大きい。これで成功率は格段に上がる。
彼と飲んだ年代物のウィスキーが懐かしい。また、ご一緒したかったけどそうはいかないようだ。
狙いは、女王だけだ。あの聡明な女王が死ねば、超大国であるヴォルフスブルクは崩壊する。まだ、未婚であり子供もいない女王が死ねば、あとは親族間の骨肉の争いが待っている。
さらに、彼女のカリスマ性がなくなれば、ヴォルフスブルク地方の他の領邦は独立を志向する可能性が高い。そうなってしまえば、超大国は1年で瓦解する。ヴォルフスブルクさえ崩壊してしまえば、あとはグレア帝国による従来の秩序が戻ってくる。
それが一番ましだ。たとえ、どんなにヴォルフスブルクの民が苦しもうとも、大陸全体の民が繁栄を享受できれば、それは最大多数の最大幸福になる。
もしかしたら、祖国を裏切ることに自分なりの罪悪感を感じているのかもしれない。だが、そんな甘い感情は制御できる。
すべては、世界の安寧のために。
大義名分があれば、私情は押し殺すことができる。仮に、ヴォルフスブルクがこのまま増強されれば、最後に待っているのは大陸全体を舞台にした破滅的な戦争だ。そんな最悪な未来を避けるために、自分は悪魔にでもなってやる。親友たちとの楽しい思い出を胸に、凶行のトリガーに手をかける。
『我々は、新しい世界に生きています。グレア帝国に匹敵する超大国は、1年経過しても団結を維持し、信頼を深めています。我々には、さらなる発展が約束されているのです。思えば、私がヴォルフスブルクの王位についた時は、風が吹けば消えるような小さな灯に過ぎなかったのです。しかし、我々は国民とともに耐えしのぎました。忍耐はある意味ではすべての解決策になると私はその時に学ぶことができました。今の私の望みはただ一つ。ただ、皆さんと一緒に前に進むことです』
女王のスピーチは終わりを告げる。そこを狙い撃つ。
「やらせないよ、アリーナ。同期として、戦友として、それだけはやらせない」
同期であり悪魔の声が聞こえた。やはり、気づいたのはあなたね、クニカズ。




