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第201話 疑念

 グレア帝国には北洋艦隊と南洋艦隊の2つの艦隊がある。

 もし、ヴォルフスブルクとグレアが開戦した場合、真っ先に戦うのは北洋艦隊だ。この北洋艦隊だけでも小国の艦隊を撃破できるほどの実力を持っているが……


 本当の意味での主力艦隊は、俺たちが監視している南洋艦隊だ。戦艦を多数保有し、世界最強の艦隊に君臨している。大陸の外側にある大国・アルミア朝との戦争でも大活躍しており、経験も豊富だ。


 当時世界最大の艦隊であったアルミア艦隊をボルト湾で迎え撃ち、アルミア艦隊280隻のうちの180隻を海の藻屑とした名実ともに世界最強の艦隊。グレア首脳部が戦争を起こすつもりなら、この艦隊は臨戦態勢に入っているはずである。戦争がはじまり次第、北洋艦隊と合流して北海の制海権確保に動き出すことになるからだ。


 だが、その動きはない。


「局長、やはり敵は介入を取りやめたのではありませんか?」

 部下たちは楽観論に傾きつつある。それはそうだろう。ザルツ公国の残党たちは軒並み逮捕されていて弱体化。これ以上の介入はリスクが高い。


 撤退もやむなしだろう。だが、あの宰相がここまで読んでいなかったのか? わざわざ大使に偽装情報を流しながら、この計画を終わらせる。


 不可解だ。


 つまり、裏がある。そもそも、ヴォルフスブルクとグレアの国力は拮抗している。航空魔導士の技術はこちらが上だが、海軍力は向こうが上だ。ヴォルフスブルクはグレア艦隊に対抗するため海軍力の強化に動いている。航空技術の差は向こう数十年は埋まらないはずだ。逆に、海軍力は10年程度で追いつくことも不可能ではない。もちろん規模で追いついたとしても運用技術には差がある。しかし、海上包囲網を作られて輸送路が遮断されるような状況にはならない程度の規模の艦隊があれば十分なんだ。


 時間が経てば経つほど、持ち前の海軍力が生かせなくなる可能性があるならこのタイミングで仕掛けるのも理解できる。


 いや、そもそもだ。どうして、グレアはこんなに回りくどい方法を選んだ?

 いつもの工作員をこちらに送り込めば解決したはず……


 ここから考えられる結論は……


「あの女スパイはすでに準備が整っているのか!?」

 ザルツ公国の残党と工作員の2段階で計画が作られていたのだとしたら、残党の方のあっけない壊滅はあくまで囮で本命は女スパイ!


「みんな、すぐに帝都に帰還しなくてはいけなくなった。引き続き警戒を頼む」


「えっ!?」


 命令違反になっても、俺は引き返す。ここでウイリーを失うわけにはいかない。


 建国記念演説まであと3時間……

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