第200話 裏切り者
俺はしかたなく帝国南部に移動し、グレア帝国の情報を集める作業に入った、中央は両課長に任せている。すでに容疑者はわかったから、難しくはないはずだ。ポール局長の身辺をたどっていけばきっと真相に近づけるはずだ。
局長が怪しいことはアルフレッドには連絡済みだ。情報局も全力を挙げて監視に入った。これで俺がいなくてもあいつが何かおかしいことをすることはないはずだ。
そもそも、ポールには逆恨みする動機がたくさんある。
戦略シミュレーションで俺に惨敗した恨みや出世レースで後れを取り予備役手前の焦燥感、ローザンブルク帝国との戦争や両公国の反乱でたいした武功を立てることができなかったこともあって思想が過激化していることは容易に想像できる。冷静さを失っているのであれば、すぐにぼろが出ると思っていたが……
「局長、中央からの連絡です。目標に動きなし。日中のほとんどを執務室に籠もっており少数の職員以外、誰とも接触をしていないようです」
「ああ、わかった」
どういうことだ。仮にポールが本当の裏切り者で、建国記念日にテロを起こそうとしているならこんなに誰とも接触していないのはおかしい。すでに、すべて調整済みとはいってもどこかで接触しないと計画に齟齬がうまれるはずだ。
「また、軍務局の職員にも怪しい動きはありません。アリーナ殿もこちらに積極的に情報を出してくれています」
アリーナは軍務局に配置換えになっていたから、同期のよしみで監視計画の協力者になってもらっている。よって、職員に内通者がいてポールの代理として動いている場合はすぐにわかるようになっている。だが、その監視状態でもぼろを出さない。
まさか、ポールは白か?
そんな疑問すら生まれていく。ダメだ、やはり中央にいるよりも地方で間接的な情報しか手に入らない状態では判断が鈍る。
もっと情報が欲しい。すでに、行事開催まではあと数日を切っている。このまま敵がテロを諦めているならそれが一番だ。だが、ここまでグレア帝国が深く関与していた計画を簡単に放棄するのか?
すべてがおかしいことばかりだ。あの帝国の大使が言っていたことも、向こうのエースが去り際に発した言葉も……そして、今回の裏切り者の件も……
どう考えているんだ、オーラリア辺境伯は。
「局長、グレア帝国海軍主力艦隊、動きがありません」
動かないグレア帝国の情報を聞きながら、俺は焦燥感に駆られていた。




