第199話 軍務局長の陰謀
「いったい、これはどういうことですか!!」
俺は軍務局長室で、抗議の声をあげた。
「どういうこと? 情報局長はおかしなことを言うな。これは、軍務省の筆頭統括局長である私が出した命令だよ。キミには僕の命令に従うべき義務がある。違うかな?」
「しかし! ただでさえ政情不安定な現在、対テロを担う情報局の長である自分が長期間、帝都から離れなくてはいけなくなるのはリスクが高すぎます。さらに、この時期は反対派が最も活動を活発させやすい帝都建国1周年の日も含んでいますよ」
俺は、今朝突然下された命令書を握りつぶすように、強く力をこめる。
「そうだからこそ、キミに命令しているんだよ。帝国南方に出張し、部下と共にグレア帝国艦隊の様子をうかがうようにとね。最悪の場合が発生するときは、必ずグレア帝国自慢の無敵艦隊が動くだろう。その様子を局長直々に見てきて欲しいのだ。キミなら敵の微妙な様子もかぎ取れるだろう。頑張ってくれ」
「くっ」
仮にアルフレッドやウイリーに話をして、命令を覆すこともできるだろう。だが、それでは悪習を生む可能性が高い。実際、大日本帝国陸軍も中堅階級の幹部たちが暴走することで、日本を戦争に導いてしまった。
例えば、満洲事変を主導した石原莞爾だ。彼は戦略家としては優秀だったと思うが、満洲事変を引き起こしたことで関東軍に中央から独立したような意識を植え付けてしまい、中国戦線の暴走を引き起こしてしまった。
彼が出世してから、暴走しつつあった関東軍を軍中央の命令に服するように説得に行ったところ「石原閣下が満洲事変当時にされた行動を見習っている」と反論されて絶句したエピソードもある。
こういう場所で前例を作るべきではない。
だが、やはりポール軍務局長が怪しいというのはよくわかった。ここまでわかったならあとは部下たちに任せて身辺捜査をすれば確保できる可能性が高い。
ここは引き下がるしかない。
「わかりました」
俺はそう言って局長室を出た。
※
「ふん、やっと私が怪しいと気づいたようだな。だが、もう遅い。お前を物理的に排除すればこちらのものだ。あとは、俺は動かない。むしろ、俺は囮だ。こっちに目を向ければ向けるほど、お前は真実から遠くなる。精々、足掻くといい。お前が最も大切にしている存在はもうすぐ消える。この国は俺のものになる」




