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第195話 航空魔導士学(番外編)

『航空魔導士戦略教義』の第3章「航空魔導士による戦略重要拠点同士の結節点破壊」より引用


 現代の戦略では、制空権の損失は戦略的な敗北を意味する。

 敵の航空魔導士が圧倒的な優勢を築き上げた瞬間、戦争はそこで終わらせる必要があるとも言えるだろう。そうしなければ、敵軍による自国の一方的な蹂躙が起きるからだ。


 地上からの対空砲火は、一定の価値を有するが、それはあくまでけん制的な役割のほうが強く、相手は高速で移動する航空戦力であることもあって機動力の面でも限界がある。すでに、制空権を支配されている状況では、後方の輸送路は破壊され、いつかは地上の対空陣地にも物資は送られてくることがなくなるからだ。


 これはつまり、政治的な立場からも制空権を獲得できない絶望的な戦争は、回避することが必要ということだ。不運にも航空戦力が劣る状況で開戦してしまえば、破滅からは避けられない。


 では、逆の立場に立ってみる。自軍が航空優勢を確保できた状況の際はどうすればよいだろうか。

 完全な制空権の掌握ができる場合は少ない。


 相手にも反撃が可能な状況なら、戦力の摩耗を防ぐためにも、攻撃箇所は絞り込まないとならない。


 その際に優先目標として考えられるものは以下の通りである。


・敵の司令部

・敵航空魔導士の拠点

・情報通信網の拠点

・発電所


 これらの拠点は、敵の指揮系統に最も重要な役割をはたす場所であり、指揮系統を奪ってしまえば組織的な抵抗は不可能となり、地上戦力は各個撃破される運命にある。


 同様に航空魔導士という兵科は、極めて専門性が高いものだ。育成に時間と資金が必要であり、さらに空を飛ぶための魔道具の整備も専門性が高い作業となる。よって、拠点を破壊し、魔導士本人やサポート要員に損害を発生させてしまえば、再編は厳しいものとなる。より、航空戦力が優位となり制空権を獲得しやすくなるだろう。


 そして、おそろしいことがこの成熟した戦略は、航空魔導士誕生時から存在していることだ。

 そして、誕生から100年以上経ってもこの戦略はすべての基本となっている。


 余談だがクニカズとアルフレッド(ヴォルフスブルク2英雄)について、当代の英雄であるオーラリア辺境伯フランツ将軍はこう語っている。


「戦史上においても、当時の2英雄の活躍は突出している。アルフレッド将軍はどちらかとえいば基本に忠実なタイプだ。しかし、クニカズ将軍は異質である。彼の発想方法は常人のそれとは別の方向にいたのではないかと思える。こんなありえないことを言うべきではないが、彼の功績は異常だ。複数の歴史的な天才の功績をまとめて作り上げた人間のように、何か作り物のように思える。数百年生きた魔女のような存在だ。まるで、彼の戦略や発明は歴史上における特異点である。未来の世界に生きていた人間が、何らかの方法で過去に戻ってきたような……」


 そこで将軍はため息をつく。


「ありていに言えば、アルフレッドはかなり有能で才能がある軍人だが、クニカズは史上最高の天才だ」

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