第194話 疑念
倉庫の前で部下たちはテロリストたちを捕縛している。もうすぐ、内務省の援軍が来てくれるだろう。
ザルツ公国の残党たちは一網打尽されて、テロリストたちはほとんどが逮捕された。あの優男だけは逃げられたが、また戦場で会うことになりそうだ。
しかし、弱ったことになったな。
「(どうしたんですか、センパイ?)」
「ああ、一つだけ悩みがあってさ」
「(悩み?)」
「さっきの空中戦で戦った男なんだけどさ、気になることを言っていただろう?」
「(??)」
妖精はよくわかっていないようだ。
※
「おいおい、うちの宰相閣下が脱出路を用意しないなんてバカなことはしないだろう? せっかく貴重な戦闘データが手に入ったんだ。ここであんたに追撃されるんじゃ割に合わない」
※
「(あっ……)」
そうだ、あいつは自分が宰相の手先のようなことを言っていた。だが、それがおかしいのだ。グレア帝国大使の証言では、今回の陰謀は、グレアの非主流派が中心と言っていた。だが、テロリストたちの中で実際に動いていたのは、主流派の中心人物である宰相の手の者だった。つまり、あの大使か優男のどちらかが嘘をついている可能性がある。
だが、こちら側でそれを確かめる方法がないのも事実だ。おそらく、ザルツ公国の残党もそこまでは情報を知らされていない可能性もある。いや、そもそも彼らに教えられている帝国側の支援者の名前が本当の支援者なのかもわからない。
だが、これで帝国建国1周年の式典でテロが起きる可能性はグッと減った。政府内部にいるはずの裏切り者を炙りださないといけないが……実行犯になる可能性があるグループを潰せたのは大きいはずだ。
「局長、やはり幹部の数人は取り逃したようですね」
「そうか。引き続きこの地域の監視を強めよう。今回の件で全員を逮捕できるのは難しいと分かっていたからな」
残りの幹部を見つける作業は内務省に任せて、こちらは政権内部の裏切り者を見つけることに専念する。
ここからが正念場だ。
明日は更新お休みです。




