第193話 引き分け
俺は、魔力を解き放ち攻撃を迎え撃つ。接近すれば、攻撃が届くまでに時間が無くなり、避けることが難しくなるからだ。相手の攻撃や動きを制限してしまえば、敵の機動力を削ぐことができる。相手は近接戦最強クラスだが、それは小回りが利く魔力使いだからだ。
その小回りを奪ってしまえば、こちらの土俵で戦える。むしろ、妖精の加護を受けている俺の方が、その制限された環境では有利だ。
「ちぃ」
相手は小回りを制限されたことで、自分の窮地を自覚したようだ。
俺は自分の魔力の攻撃の後に続いて、急接近した。魔剣を振るい、避けることができない状況で正面からぶつかり合う。
優男も魔剣に対応して、剣を振るった。剣のレベルでは隔絶の開きがある。だが、優男は魔剣の猛攻に対処した。
「ちぃ」
今度は俺が舌打ちをする。攻撃をしのぎきった相手は逆にこちらにカウンターを仕掛けてくる。今度は俺の方が守りに回った。だが、魔力と魔剣によるアドバンテージで俺は優男の攻撃をしのぎきった。
「楽しいぃ。初めてだ。こんなに壊れないおもちゃに出会えたのは……」
「勝負がつかないな、これは……」
俺は絶望する。だが、魔力キャパシティーの観点から考えれば、持久戦はこちらが有利だ。向こうのほうの魔力の方が先に底をつく。ならば、挑発して持久戦に持ち込むことを考えればいい。
不意打ちの近距離戦以外なら、接近戦でも互角に戦えるのは今の戦闘でもよくわかった。
「おい、どうした? 優男!! まだ勝負は終わってない。そうだろう?」
俺はわかりやすく目の前の男を挑発する。
こうすればすぐに飛びついてくると踏んでいたわけだが……
「ああ、楽しかったぜぇ」
男は戦意を失ったように笑った。
こいつどう見ても戦闘狂なのに……
「おいおい、ヴォルフスブルクの英雄様がそんな露骨な挑発しても仕方がないぜ。どう考えてもこのまま戦い続ければこちらが不利だ。魔道具の性能も、おそらく魔力キャパシティーも段違いなんだからな。だが、良いデータが取れたぜ。接近戦なら、世界最強の男とも互角に戦える。それがわかっただけでも、収穫があった」
「だが、距離を取れば、俺の遠距離攻撃で一撃で潰すぞ」
「おいおい、うちの宰相閣下が脱出路を用意しないなんてバカなことはしないだろう? せっかく貴重な戦闘データが手に入ったんだ。ここであんたに追撃されるんじゃ割に合わない」
そう言って男は懐から転移結晶を取り出す。おいおい、どんだけ資金があるんだよ、グレア帝国は……
「では、また戦場で! 英雄様!」
優男は笑いながら消えていった。




