第192話 接近戦特化
接近戦に特化した航空戦力というのはかなりわかりやすい。敵の遠距離からの攻撃をかいくぐって、射程内に入ってしまえば勝率がグッと上がるからな。
1960年代。ミサイル万能論というものがあった。空中戦の勝敗はミサイルの性能で決まり、戦闘機同士が従来のように格闘戦で勝敗を決めることはなくなったから、機銃など余計なものは不要だという考え方だ。当時のミサイル技術の発展はすさまじいものがあった。
さらに、1958年の台湾空軍と中国空軍の戦闘である。第二次台湾海峡危機とも呼ばれるその緊張状態の中で行われた空戦で、対空ミサイルがその性能を発揮した。数に優る中国空軍の戦闘機を、台湾は対空ミサイルを搭載した戦闘機で迎え撃ち大戦果を挙げた。対空ミサイルの命中率は6割で、台湾空軍はキルレシオ11対2という圧倒的な勝利を収めたのだ。
この戦闘の経験によって、アメリカもミサイル万能論が主流となり従来の有視界戦闘を軽視する論調が強まった。そして、その結果がベトナム戦争における誤算にもつながった。
ベトナムの熱帯雨林という環境の下では、精密機械は故障しやすく地形によってミサイルの命中精度が極端に低下し、従来通り機銃を持っていたソ連製戦闘機に苦戦を強いられることになった。
ミサイルを撃ったらすぐに撤収しないと、機銃を備えて格闘戦に優るソ連製戦闘機のえじきになるからだ。ミサイルの命中精度が思った以上に高くなかったことと、懐に入られたら何もできなくなることを恐れてアメリカも従来通り、機銃を装備させる方針転換を迫られた苦い歴史がある。
同じことがイギリスでもおこなわれた。ミサイルの発展によって、今後は有人航空機の必要性が低下すると判断したイギリス国防省は、ミサイルを優先して航空機の開発にストップをかけてしまった。その結果、業界の停滞を招いてしまったのだ。
遠距離ですべてを仕留めることができればそれが最高だが、現実ではそうはいかない。優男のように接近戦に特化するのも合理的な戦略だ。
現在のヴォルフスブルクの空中戦の基本は魔力による遠距離攻撃の後、数を減らした相手に接近戦を仕掛けて数的有利を確保したうえでせん滅する作戦だ。
だが、目の前の優男のように接近戦特化型の兵士が多くいるのであれば、考え直す必要もある。どこかに隠れていて、俺たちが近づいてきたら上昇し格闘戦を仕掛けてくる奇襲はかなり脅威だ。
「(センパイ、どうしますか? 相手の人、すごく強いですよ?)」
「大丈夫だ。俺に考えがある」
次の攻撃が勝敗を分ける。
リアルの仕事が少し修羅場気味なので、もしかすると明日は更新お休みするかもしれませんm(__)m
よろしくお願いします!




