第191話 空中の格闘戦
俺たちは、空中での格闘戦に入る。お互いに剣を抜いた。お互いを狙い何度も剣を向け合う。地上での決闘とは違い、空中での剣による戦闘は複雑だ。
平面ではなく、立体で戦闘が行われることで、剣を避けるための方向は増える。お互いのスピードも地上戦闘よりも格段に速く、加速装置により高まった勢いによって攻撃力は増す。
ひとつの選択肢のミスが即座に致命傷に繋がる。もしくは、スピードの加減を間違えただけで、一瞬で地上に墜落して命を落とすことになる。
逆に、スピードが遅すぎると敵の補足されやすくなり、敵の攻撃を避けることができなくなる。
この駆け引きは独特のバランス感覚を必要として、お互いの航空魔導士としての才能がそのまま勝敗に繋がりやすい。
そもそも、妖精の加護がある俺と互角に戦える時点で、名も知らない優男に相当な才能があることを意味していた。
「さすがは、世界最強の魔導士ぃ。すさまじい才能だぁ。まさかここまで楽しく戦えるなんて思わなかったぁ」
優男は顔面を崩して、楽しそうに笑った。その顔はまさに、戦闘マシーンだ。強敵と戦えるだけで人生が満たされるように考えているサイコパスのような顔をしていた。
「楽しいぃ。楽しいぃ。最高のおもちゃが手に入ったよぉ。才能がないやつは、おもちゃにもならないんだよぉ。皆すぐに力尽きて落下するぅ。楽しいぃ。楽しいよぉ。全力を出せるってこんなに楽しいもなんだぁ。知らなかったぜぇ」
嬉々として剣を振るう相手を見ながら、俺は一種の恐怖すら感じていた。この男は、本当に強い。近距離の格闘戦なら、ニコライ=ローザンブルクを上回るほどの才能を感じられる。
こんな相手、ゲームには登場しなかったぞ!
まさか、俺の干渉によって本来、日の目をみることがなかった空中適性ある人間が覚醒したのか。航空魔導士という新しい戦科を作ったことで、ゲームそのものとはまるで違う歴史が生まれたのか……
そして、その異能は妖精の加護に匹敵するほどの力を持っていることになる。
「いいねぇ、いいねぇ。壊れないおもちゃってさいこうだぜぇ!!」
この優男は魔力を使う気配はない。ならば、格闘戦特化型ということか。
小回りを重視して、魔力の出力……つまり、速度を犠牲にしてでも、方向転換や旋回に特化して才能を開花させたのか。狭い分野に特化することで、妖精の加護にも匹敵する才能を持った怪物。
それが目の前にいる優男の正体だろう。厄介な相手を前に、俺は必死に対処法を考え続ける。




