第186話 エリートの真実
―ポール軍務局長視点―
憎い、憎い、憎い。
俺はクニカズが憎い。すべての名声をあいつに踏みにじられた。本来ならば、俺があいつの地位にいたはずなんだ。女王陛下や軍首脳に頼りにされて、強敵を戦術で撃破して真の英雄になる。救国の英雄に……
なのに……
俺は今では予備役一歩手前の終わった男になりつつあった。
すでに階級ではクニカズに追いつかれている。
あいつに軍事演習で大敗したことで、俺は学生にも負けた戦下手というレッテルを張られて後方支援やデスクワークばかりの毎日になった。前宰相閣下に拾われて、出世コースだけは確保できたが……
同僚たちからは、「口先だけ」「理屈っぽい」とバカにされている。宰相閣下が失脚したことで派閥の俺もついに首が飛ぶわけだ。
後任はもちろんクニカズ。
あいつは、将来の元帥候補とか、戦略史に必ず名前を残す男とか上官すら畏怖しているような存在だ。もう、俺なんかが届かない場所までたどり着いてしまった。
もう、終わりだ。俺の野望も何もかもすべてが終わり。
そんな絶望した時だった。前宰相閣下から手紙が届いたのは。
彼の手紙には、一緒に復讐を果たして欲しい。クーデターを起こしてグレア帝国と協力し、女王とクニカズ一派を排除して、新政権で軍務大臣になって欲しいとつづられていた。
彼は、厳しい監視の元、軟禁生活を送っているはずだ。それでも、なんとかして手紙を送ってきたということはそれだけ本気のはず。
指定されたバーに行くと、グレア帝国の駐在武官がいた。彼は短く俺にメモを渡したのだ。
計画はこうだ。
帝国一周年の記念行事に、旧ザルツ公国幹部を含む反乱分子を軍務局長権限で紛れ込ませて欲しい。
彼らに現・帝国首脳を暗殺させて、警備責任者のクニカズを弾劾し失脚させる。そして、軍の実権を掌握した後、前宰相閣下を奪還してクーデターで政権を獲得してほしい。仮に、抵抗があれば、グレア帝国が全面にあなたを支援する。
この計画は、政治的に終わった自分にとっては大変魅力的なものだった。
一発逆転の秘策だ。
わらにもすがる気持ちで俺はその提案を受けた。




