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第185話 誤解

 大使からは重要な情報をもらった。

 まず、一連の動きはグレア帝国の首脳部が考えている陰謀ではないことだ。あくまでも非主流派が暴走しているだけで、首脳部は今の段階では開戦を避けたいと考えているなら安心して行動できる。


 もし、これで主流派が考えた陰謀だったら、旧・ザルツ公国の幹部を摘発したことをトリガーに戦争への道を突き進むことにもなりかねない。


 少数派を弾圧する大ヴォルフスブルク帝国を成敗するといえば、覇権国家だったグレアを支持する国が多いだろう。


 だが、首脳部に開戦の意思がなければ話は別だ。


 逆に、向こうも主戦派である非主流派を叩く絶好の口実になる。つまり、今回の場合に限っては俺たちとグレア首脳部の思惑は一致しているのだ。


 戦争を避けて、陰謀の目を潰す。


 それが確認できただけでも、大きな収穫だ。あとは、反乱を企てているグループの確かな証拠さえつかんでしまえばいい。


 国際問題になる危険性が少なければ、この問題を解決することに躊躇はいらなくなる。


 こういう外交の場では当事者間の意思疎通は非常に重要になる。


 たとえば、先の大戦に日本が参戦した直接の要因にもなった『ハル・ノート』だ。

 当時、フランス領インドシナを併合した日本に対して報復措置として石油禁輸措置をおこなったアメリカの両国は関係を急速に悪化させていた。アメリカの国務長官コーデル・ハルは交渉の場において、中国とインドシナからの撤退を求めてこの文章を日本側に突き付けた。


 日本側の有力者たちは、これを「最後通牒」もしくはそれに準ずるものだととらえたことによって、日米開戦は決定的になったのだ。


 ただし、この文章にある「中国」とは、満洲までは指していないとアメリカ側では考えられており、さらに冒頭には「tentative(暫定で) and(あり) without(拘束義務は) commi(ない)tment」という一文が書かれた私案にすぎなかったため、まだ交渉の余地があったのではないかと考えた者も多い。


 一種の誤解から破滅的な戦争に突き進んでしまった例だ。


 もちろん、このハルノートの解釈は歴史学者やジャーナリストによって多くの議論がある。ただし、外交交渉の場における誤解の恐ろしさを示すわかりやすいものだ。


「今回の大使と直接会えて話せたのは大きかった」

 俺は寒い夜の空の下でそうつぶやいた。



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