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第184話 ウィスキーと政治

「冷戦の終結後ですか……」


「そうだ。あくまでも仮の話だが、このまま水面下の対立だけで本格的な戦争が起こらなかった場合の話だ」


「おそらく、どちらかの大国が経済的に耐えきれなくなって、経済的に崩壊しているでしょう。そして、残った方が覇権国家となる」


「そうだな。そして、覇権国家は大陸唯一の超大国となるのだ。その覇権国家の法や通貨が世界の基本となり、超大国が一番有利な国際秩序が誕生する」


「しかし、ひとつの超大国が長くその座にとどまれることはほとんどありません。常に、どこかの国や組織がその超大国と対立します。そして、その小競り合い中に、対抗馬となる新しい大国が生まれるのが歴史の常です」


 実際に、俺の世界でもローマ帝国、モンゴル帝国、アメリカ合衆国が唯一の超大国に該当するだろう。


 ローマは、ゲルマン人の大移動に悩まされて国力を衰退させていった。


 モンゴル帝国は圧倒的な支配地を誇ったが、周辺諸国との対立や親族間の後継者争いによって分裂し、帝国の中核であった中国は反乱軍のリーダーであった明朝の建国者・朱元璋に奪われることになる。


 アメリカ合衆国も、イスラム教原理主義者との宗教戦争に巻き込まれ、泥沼の中東の地に引きずり込まれてしまい、中国の台頭を許すことになった。


 これらの事例からもわかるように超大国の寿命は意外と短いことが多い。


 おそらく、こちらの世界でもそういう考えを持っているということだろう。

 大使の経歴を考えれば、彼は宰相派閥の人間だ。つまり、グレア帝国主流派の考えだろう。


 彼は、ウィスキーを飲みながら「そうだな。超大国は意外と利益が少ないのじゃよ」と笑っていた。


 この言動から考えれば、グレア首脳部はこちらとの決戦を望んでいないのだろう。共倒れになる可能性も高いし、仮にグレアが勝利しても国力以上の責任とリスクを背負うことになることを望んでいない。大使はそう暗にほのめかしているのだ。


 できることなら、このまま冷戦関係を続けた方がメリットが大きい。

 そういうことだろう。


 そして、その主流派の考えとは真逆のことが起きている。つまり、反主流派が旧・ザルツ公国幹部たちを支援しているということだろう。


「よくわかったような顔をしているな、キミは?」


「ありがとうございます。大切なヒントをいただきました」


「ほう、それはよかった」


 大使はあえて情報を流したのだ。


「非主流派が陰謀の糸を引いている。こちらとしても、その活動は不本意なのだ」と。

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