第181話 ホームレス
そして、俺たちは朝の準備をする。
夢の話をどこまですればいいのか、俺は悩んでいた。
そもそも、あれは夢なのか、現実なのかよくわからない。ただし、ターニャから聞いていた世界の説明を俺が脳内補完しただけなのかもしれない。
朝食のパンとウインナーを食べながら俺は確認する。
「なぁ、ターニャ。この世界に賢者の石ってものはあるのか?」
賢者の石という言葉に彼女はピクリと反応した。だが、俺には悟られないようにすぐに表情を戻した。
「賢者の石?」
彼女には、俺の考えていることが伝わるはずだ。だが、さっきから神の言っていた内容をどんなに考えても、彼女に伝わっているような印象はない。つまり、あの夢はアカシックレコードが完全なプロテクトをかけているということか。
「ああ、だってこの世界は錬金術から科学じゃなくて魔力が進化した世界なんだろう? そうなら賢者の石とかを見つけて、本当の意味で魔力が発展したのかなって思ったんだけど?」
怪しまれないように俺は少しずつ情報を聞き出そうとした。
「そうですね。たしかに、この世界は錬金術師が、賢者の石を手に入れたことから分岐しました。賢者の石……卑金属を金に変えることができたり、不老不死の薬を作り出せる魔法石ですね。それを手に入れた錬金術師ジャービルは、魔力の才能があったことから偶然、水銀から賢者の石の制作に成功したんです。そして、彼はその一生をかけて魔力の体系化に成功して、ジャービル文章という魔力研究書を多数執筆します。これによって、世界に魔力は広まったんです」
「じゃあ、その賢者の石保有者はどうなったんだよ? 普通なら真っ先に不老不死になったんだろう? まだ、どこかで生きているのか?」
「亡くなりましたよ。500年生きて、世界に絶望して……」
「えっ!?」
「彼は、不老不死になって身近な人たちが次々と死んでいくのを見送って心を病んでしまったのです。200年も生きれば、大魔導士は孤独になり迫害されるようになります。彼は死に場所を求めてさまよい、そして、自分を殺す方法を見つけたのです」
「どうやったんだ?」
「賢者の石を破壊してしまったんですよ。そうすれば、自分の命も終わるんですよ。それがかつての世界最高の魔導士の最期です。だから、もう賢者の石は存在しません」
「そうか」
俺たちはそう言って会話を終わらせた。
ここで一つだけ疑問がある。第二の賢者の石の保有者である俺は、不老不死なのかどうかだ。
だが、彼女にそれを聞くこともできなかった。
彼女が苦しそうに会話をしていたからだ。
妖精は何かを隠している。




