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第179話 神

「クニカズ君? キミは賢者の石を知っているかい?」


「賢者の石。たしか、錬金術における卑金属を貴金属に変えることができる伝説のアイテム」


「そう、正解。他にも人間を不老不死にできたりいろんなことができるんだよ。まぁ、でもキミたちの世界ではあくまで伝説だったけどね。でも、僕は科学文明に絶望していたんだよ。科学が極まれば極まるほど人間は絶滅の危機に瀕することになる。僕から見れば、そんな不合理なことはないだろう。科学ではなく、魔力が発達した世界になれば、結論は変わるかもしれない。だからこそ、本物の賢者の石を人間に与えることにした。キミがもといた世界では、プロメテウスの火を与えたことになっているはずだけど、こちらの世界では賢者の石を与えてあげたんだ」


「そして、科学文明ではなく、魔力が発達した世界ができたんだな」


「うん、正解。でもね、僕は基本的にはあまり介入をしない主義なんだ。だから、魔力を発達させた歴史をあとは眺めるだけのつもりだった」


「……」


「だけど、魔力文明は科学文明と同じ結論に達してしまったんだよ。魔力は、ほとんど科学と同じものになってしまったんだ。魔力世界は発展すると、巨大な魔力炉を作り出して無限のエネルギーを作り出した。科学とは違って環境すら破壊しない完璧なものが誕生したと思ったよ。でも、そこまでだった。技術の発展が限界に達すると、彼らは傲慢化して魔力炉を悪用していった。神の摂理すらゆがめた冒涜によって自分たちから滅亡への道を駆け抜けていったよ。つまり、このままでは同じ結論に達する。科学も魔力もただ、滅ぶために強くなっているだけなんだよ。それが人間という種の限界なのかもしれない」


 その発言を聞いて少しだけ不信感を持つ。


「そう、イライラしないでくれ。失言だったとは認めるよ。僕はキミにお願いがあるんだ」


「願い?」


「ああ、キミの知性や優しさを見込んだからこそ、ターニャという賢者の石を授けた。キミは史上二人目の賢者の石の保有者なんだよ」


「ターニャが賢者の石?」


「そうさ。そうでなければ、キミの莫大な魔力を維持できないだろう。それに彼女にとっても君にとっても、再会は喜ばしいことだろうしね。いや、まだ意味は分からなくていいんだ」


「俺は何をすればいい?」


「この世界を宿命から救って欲しい。破滅へと向かう運命からどうにかしてね。キミは僕と唯一価値観を共有できる人間なんだ。科学も魔力も知っているのだから」


 そう言って神は光に包まれていった。

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