第178話 いくつもの世界
いつものように仕事を終えて、妖精と食事をとり眠る。情報局に配属されてからは規則正しい生活になっていた。たまに、ウィスキーを飲むくらいだ。
そして、目が覚めた時……
俺は、宿舎とは別の空間にいた……
地面だけがある空間だ。空ではなく宇宙のような闇が周りにはある。そして、床には壊れた時計のようなものが無造作に捨てられていた。無数に。
「どこだ、ここは……」
目が覚めた時、俺はなぜか立っていた。いや、それだけじゃない。服装も寝ていた時のものではない。
日本で暮らしていた時の部屋着だった。
「やぁ、目が覚めたかね、クニカズ君?」
そこには、40代くらいの男が玉座に座って笑っていた。
「あなたは?」
「そうだね。わかりやすく言えば、神様のようなものかな。キミの大好きなターニャの創造主でもある」
うさんくさい男は笑う。
「どうして、今になって姿を現したんだ?」
「キミには期待しているからね。そして、キミは期待以上のことをしてくれた。だからこそ、ここに呼ばせてもらったんだ」
「意味が分からない」
「クニカズ君? 異世界転生をしたキミならわかってくれるだろう? 世界には無数の選択肢がある。キミが朝食に、米を食べた世界。逆に、パンを食べた世界。そのわずかな違いでも世界は少しずつ変化してしまうんだよ。僕は、その無数に変化していく世界の管理人のようなものさ。近代神秘学では、僕のような存在をアカシックレコードというそうだけどね」
妖精からは、それについては聞かされている。そして、マジックオブアイアン5の世界は、俺が今いる世界をモデルにアカシックレコードの影響を受けたゲームクリエイターが作り出したゲームだってな。
「そこまでしっかり理解してくれるなら嬉しいよ」
「心を読んだのか!?」
「どうだろうね。まず、最初にキミたちの世界が生まれたんだ。でもね、キミたちの世界は科学が発達してしまった。残念なことに……そして、科学は神すら殺して暴走を始めた。いくつもの世界線で選択を誤り核戦争をはじめて滅亡したんだよ、勝手にね。冷戦を無傷で生き残れた世界なんて、ほとんどないんだよ。キミたちの世界くらいしかね。もちろん、歴史は簡単に変わってしまう。キミたちの世界では、冷戦と言えばアメリカとソ連だったよね。でもね、それがアメリカと日本、アメリカとドイツ、ドイツと日本、インドと中国。いくつも選択肢があったんだよ。歴史好きなキミならおもしろいだろう?」
「ああ、バタフライエフェクトみたいなものだな」
「うん、そうさ。そして、僕は簡単に世界を滅ぼしてしまう科学世界に絶望したんだ。少しでも選択を誤れば、何も残らない世界なんてなにかおかしいとね。そこで、キミが転生した世界を作ったんだよ」
神は不敵に笑い続ける。




