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第177話 1周年

「以上が、旧・二公国の潜在的なリスクです。情報局としては今後とも継続して調査を続けていきたいと思います」


 大佐が、女王陛下・軍務大臣・軍務次官にこちらがつかんだ情報を連絡した。


「ありがとう、ふたりとも……その方針で引き続き調査をお願いします」


「わかりました」


 女王陛下は少しだけ心配そうに俺たちの方針を承認した。


「しかし、クニカズ。この情報が分かった以上は、来月の帝国建国記念日の祝賀行事は警備を増やした方がいいかもしれないな」

 アルフレッドはそう懸念を伝える。


「そうだな。過激派が行事に紛れこむ可能性もある。ここで何か失態があれば、帝国の団結が揺らぐ危険性もある」


 そう言いながら、俺の頭にあったのは「サラエボ事件」だ。


 オーストリア皇太子夫妻が、セルビアのテロリストによって暗殺されてしまった事件だ。

 さらに、その後の外交交渉における致命的な認識のエラーと大国間の複雑に入り組んだ安全保障協定、一時的には存在していたはずのオーストリアに対する同情心の変化などが絡み合って、破滅的な戦争へと突き進んだ。世界全体で3000万人以上の死傷者を出し、さらに戦後処理のまずさから発生した第二次世界大戦で8000万人の犠牲者を出したことを考えると、この事件の歴史的な重みがよくわかる。


 第一次世界大戦では当時の世界人口の2パーセント近く、第二次世界大戦では2.5パーセント以上が失われたのだ。


 こちらの世界ではそんな破滅は起こしたくなかった。


 仮に、グレアが意図していなくても現地の反乱分子が暴走すればどうなるかはよくわかる。

 破滅的な戦争を引き起こすトリガーは、大軍である必要はないのだ。1発の銃声と人間の利己的な欲望があれば事足りる。


 おそらく、グレアもこちらも大規模な戦争はまだ望んでいない。準備ができていないからだ。

 だが、仮に……


 ウイリーが暗殺でもされてしまえば、人々の憎しみは戦争へと向かうだろう。


 それだけは避けなくてはいけない。この期間は特に監視には注意が必要だ。

 

「では、情報局は監視を強化します。内務省とも連携を深めたいと思っています」


「ああ、内務省側にはこちらから伝えておく。今度、幹部で会合を開こう」


 破滅回避に向けて、俺たちは動き始めた。

明日は更新お休みです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] フィン○ァンネルバリアならぬ、ダンボールバリアで(笑)
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