第172話 ホームレス、慰める
マッシリア大使館からの情報分析も無事に終わった。
より詳細な情報と、いくつものルートから情報を確認した報告書が送られてきたのだ。
その内容は……
「局長の分析通り、海軍予算の上昇は前年比プラス10パーセントで推移する方針。その程度では、新造艦の建造は1~2隻になるようで、あくまでも老朽艦の引退のための予算増加だとみられる」
こんな感じだった。
「さすがですね、局長!!」
局員がそう言って俺を褒めてくれる。
「ありがとう。でも、実は外れてたらどうしようって内心ではドキドキだった」
そう言うとみんな一斉に笑い出した。たまには、こういう時間も大事だ。情報分析は、孤立がいけない。意固地になって一人で考えてもどこかで必ず失敗する。
そして、情報戦の敗北は、国家の滅亡につながる。
実際、大日本帝国海軍がミッドウェー海戦に敗れて主力空母4隻を失った原因にも情報戦の敗北がある。日本軍の暗号が解読されてしまい作戦目標がアメリカには筒抜けだった。戦いの前に情報戦に敗北した日本は、壊滅的なダメージを受けてしまったのだ。
その歴史的な事実を知る俺は、手を抜きたくない。
だからこそ、フォローも必要だな。上司として……
「ムーナ大佐。よかったら、昼食を食べながら、ミーティングいいかな?」
慣れないことをしようとして、昭和のサラリーマンみたいなことになってしまったと言ってから後悔した。
※
『局長と課長が、ついにタイマンだぞ……』
『殴り合いとかにならないかな……』
『大丈夫だよな、きっと……』
※
「悪かったね。急に誘ってしまって……」
「いえ」
大佐は口数少なめだ。かなり落ち込んでいるな。この光景は転生してから何度か見ている。
軍務省の食堂で質素な昼食を食べながらするミーティングでは、やはり話がなかなか進まないな。
「どうだった? マッシリアからの報告の分析は?」
「正直に言えば、自信を失いました」
やはりか。彼女は失敗しらずのエリートだ。
「だが、まだ始めてから時間が経っていない。まだまだ、失敗する方が多いだろう?」
「それもそうですが……どちらかと言えば違います。局長、私が自信を失ったのは、あなたの存在が大きすぎるからです」
「なっ……」
「だってそうでしょう? あなたは、世界最高の魔導士であり、天才的な軍略家でもあり、さらに今度は情報部門でも恐ろしいほどの才能を見せている。私だって自信があったんですよ。でも、そんな自信なんてボロボロになってしまった。もう、あなたがいればいいんじゃないか。そんな風に思うんです」
彼女はうつむいて落ち込む。そうか、そんなプレッシャーを与えてしまっていたのか。
ならば……
「それは違うな、大佐……君は俺の本質を知らないだけだ」
俺は懺悔を始めた。




