第171話 ホームレス、圧倒する
俺は手に報告書を持つと、分析を説明していく。
「まずは、皆が抜け落ちていた視点の解析だ。情報の出所を探さなくてはいけない」
「ですが、情報の出先は、マッシリア王国海軍省次官では!?」
ムーナ大佐は悔しそうにそう叫んだ。
「ああ、そうだ。だが、彼がどこで発言したかを考えなくてはいけない。皆はそこを重要視していなかった。それが情報解析においては弱点になる」
「なぁ……」
「今回はマッシリア王国海軍の機関紙に次官が文章が投稿したようだな。駐在武官のファントム少佐は、どこからの引用か書いてくれているだろう?」
「本当だ!」
「なぜ、この海軍の機関紙に次官が投稿したことを考えた方がいいだろう。これはあくまでも自国の海軍内部に向けたものだ。外への表明ではない。なぜ、わざわざ海軍省のナンバー2が機関紙に文章を投稿したか? それは、おそらくガス抜きのためだろう」
「ガス抜き?」
ムーアはビックリしながら、こちらを見つめる。
「ああ、ただでさえ列強国の軍隊は航空戦力を整えるのに四苦八苦している。それも航空戦力は陸軍の領分だ。ライバル関係にある海軍に不満が溜まるのは目に見えている。理屈ではわかっているが、人間の感情は止められない。このまま予算に格差がある状況が続けば、海軍側の士気にかかわる。もしかすれば、不満に思った海軍軍人が暴発する可能性だってある。だからこそ、ここで次官がでてきて海軍軍人の不満を和らげる投稿をしたのだ」
「ですが、予算が増加するなら脅威ではありませんか!!」
「残念だが、ムーナ大佐。キミはもう少し頭を冷やした方がいい。この次官の発言には、タイムテーブルを示す発言もなければ、予算がどれだけ増えるか……具体的な発言はほとんどない。つまり、あくまでもそういう方針だと言っているだけに過ぎない。そもそも、次官は去年よりも少しでも多く予算を獲得できればいいのだ。そうすれば、海軍力は前年比で増強される。嘘は言っていない。部下たちの不満もある程度緩和される」
「……」
「いいか、情報を分析するときは数字が重要だ。数字がなければ、ただの夢物語にすぎなくなる」
大佐は悔しそうにうつむいてしまった。
「マッシリアのファントム少佐には別ルートからの情報確認を急ぐように伝えている。続報が来てからさらに深い分析に入ろう。今回のように相手の様子やどういった意図があるか。情報が誰からどこで発表されたか注意し、数字に注目するようにしてくれ。それでかなりのことがわかる」
俺はそうまとめた。
※
「やっぱりすごいよ、クニカズ将軍は……」
「航空魔導士だけじゃなくて、まさか情報戦にも精通しているとはな」
「課長は、たぶん初めての挫折だよな。秀才は天才に勝てないのかもな」
明日は更新おやすみです!




