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第170話 ホームレス流の情報分析

 情報局員たちは、会議室に集まった。

 すでに、マッシリア王国の大使館から連絡があった内容を全員に伝えている。


「それでは、情報分析会議をはじめよう。大使館からの連絡には目を通してくれたな?」

 俺が司会として会議を始めた。


「議題はもちろん、マッシリア王国の海軍力増強についてだ。向こうの海軍省の次官が今後数年間で自国海軍を増強していくと発言したらしいが……」


 俺の簡単な説明が終わると、ムーナ大佐がいち早く手を上げて発言する。


「これは我が国の安全保障において、緊急の問題となるでしょう。ただでさえ、我が国は陸軍国家です。海上戦力の優位性はグレア―マッシリア連合が圧倒的です。これ以上、差を開かせるわけにはいきません。こちらからの先制攻撃を含めて、持ち得る軍事オプションを検討すべきです」


 軍のトップエリートであるムーナ大佐の意見に一同は圧倒される。情報は、誰が言うかも重要だ。信頼されている人間が言えば、嘘が本当になりやすい。


「うむ。では、カレル分析課長はどう思う?」


「たしかに、この情報が正しければ、ムーナ大佐が正しいでしょう。ですが、分析課としては結論を出すのは時期尚早だと思っています。そもそも、マッシリアに海軍力増強をする余裕があるのでしょうか。列強国のすべてが自国の航空戦力を整えるのに精いっぱいです。このタイミングで海軍力増強に乗り出すのは、グレア帝国ですら難しいのに、それよりも劣るマッシリアができるのか? 疑問です」


「軍事は速度を重要視すべきです。カレル分析課長の意見が間違っていたにもかかわらず、我らがそれを見逃せば破滅的な敗北という結果になるでしょう。ここは積極策の準備をするべきです」


 局員たちは、同期との出世レーストップを走るムーナ大佐の意見に傾きつつあった。カレル分析課長の経歴のほうが、バイアスになっている可能性が高いな。


「うん。二人の考えはよくわかったよ。局長としての結論を伝える。俺は、カレル分析課長の意見が正しいと思う」


「なぜですか!? 分析課長の意見では遅すぎます」


 トップエリートの肥大化したプライドで冷静さを失いムーナは俺に猛抗議をはじめた。


「残念ながら、ムーナ課長の意見では、情報を取り扱う者として最も重要な視点が抜け落ちている。キミの経歴はすばらしい。そして、その素晴らしい経歴から生まれる信用が国家に対して悪い影響を与えるかもしれないことをもっと自覚した方がいいな」


「なっ!?」


「それでは、私の考えを発表する」

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