第17話 ホームレス、前世の知識で無双する
なんという無茶振りだ。
どうせ、異世界から来た英雄ということで、教官も俺の頭を叩きたいんだろうな。初陣でいきなり300人の兵士を捕虜にした素人なんて目の上のたんこぶみたいなものだろう。
新兵教育でも、生意気な新兵にマウントを取って大人しくさせるのが定跡だとよく聞く。映画でそういう展開をよく見てきた。
この布陣図どこかで見たことがあるな。
そうだ、関ケ原の戦いだ!!
あの時も石田三成率いる西軍が数的な有利と立地的に優勢であったにもかかわらず、徳川家康率いる東軍に惨敗した。
どうせ、間違うなら少しでも可能性を高めてやる。
「教官、正直この世界の歴史についてはまだまだ勉強途中でわからないことだらけなのですが……」
「そうか、そうか。ならば、教えてやろう。ゆっくりと聞くが……」
「しかし、俺の世界でも似たような戦いがありましたので、そちらから推測させていただきます」
「なっ!?」
「おそらく、数に優る西軍は情報戦で敗れていたのでしょう。情報戦だけではない。諜報戦かもしれません。すでに、西軍には裏切り者がいたのではありませんか? すでに西軍は首都寸前まで追い詰められていて風前の灯火のような状況です。ならば、東軍の軍門に下って家を残そうとする者は必ず出てきます」
「……」
「さらに、おかしいのは東軍です。東軍は、本来攻める側ですよね。古今東西、いくさは守る方が有利です。守備を切り崩すためには、最低でも数倍の戦力が必要になる。にもかかわらず、東軍の戦力は西軍よりも少ない。つまり、この戦場は局地戦にすぎないのではないでしょうか。別動隊が本体でありそちらがすでに敵の首都に迫っていると考えれば、絶望する西軍の将が出てくる可能性は高い」
そうだ、関ケ原の戦いもあくまで局地戦だ。
東北では、伊達家・最上家と上杉家の連合軍が……
長野では、徳川家の別動隊と真田家が……
北陸では、前田家と丹羽家が……
九州では、黒田家と大友家が……
それぞれ激突している。
つまり、大局的に見れば、あそこで東軍が敗北しても戦争は続いていた可能性が高い。西軍の主力が壊滅したことで、日本全国が分裂したいくさが一瞬で終わったのは奇跡なんだ。
「では、クリスタ大尉が述べた理論のどこがおかしいか述べてみたまえ」
「まず、西軍は守備側であり、自国内で戦っています。補給的には間違いなく有利です。仮にここで補給が破綻していれば、戦争どころではありませんから。通常の国家運営すら崩壊しているはずです。つまり、補給問題でこの戦いに負けるとは考えにくい」
「うむ……」
「まぁ、リーニャ大尉の意見に自分の知識を上乗せしたものです。彼女の意見は、兵士の士気だけしか考えていなかったところが惜しかったのだと思います。今回の問題の主題は2つ。国家に忠誠心をもたない指揮官の弊害と局地的ではなく大局的な視点を持たなければいけないものですよね。だからこそ、着眼点は素晴らしかったが、正解とは言えないのでしょう」
教官は満足そうにうなずいた。
「素晴らしい大局観だ。まさか、この意地悪な難問を答えてしまうとは思わなかった。初陣にもかかわらずアール砦の防衛を成功させてしまった実力は本物か……」
教室はざわつきはじめた。
ラッキーパンチで正解できたみたいで俺は安心する。
リーニャ大尉が俺のことをすごい目で見つめていたけどな……