第168話 情報機関
情報局。
それはスパイの元締め組織だ。
だが、スパイというものは映画のように派手な世界に生きているわけがない。映画の世界のようにあんなに目立って行動するスパイは、すぐに身バレする。
俺は、部下たちに講義を始めた。
「基本的な情報工作は3つに分類される。
ひとつめは情報収集だ。ただし、情報収集のほとんどは公表された情報で事足りる。秘密の情報というものは、普通であればまず手に入らない。政府中枢だけが持ち得ている情報が簡単に手に入ったとしても、それが真実だという裏付けをすることが不可能に近い。
つまり、秘匿された情報は、それが本物か偽物かわからないのだ。
そのような不確実性を持つ情報によって、国家の命運をかけるわけにはいかない。
だからこそ、正式なルートから発表された情報を重要視するんだ。
無機質に見える公的な情報も、文脈を読むことでいろんなメッセージが含まれている。それを解釈して向こう側のメッセージを正しく受け取るのが優秀なスパイの仕事だ。
ふたつめは協力者を作ることだ。ただし、善意の協力者は信用ができない。お互いにお互いを利用し合うような相手こそふさわしい。
出世欲に駆られた官僚や政治家などが狙い目だ。ただし、こちらの筋からもたらされた情報は真偽不明なことが多い。自分に有利な偽造情報をあえてこちらに伝えている可能性の方が高い。だからこそ、協力者は複数確保して、真偽を確認しなくてはいけない。
最後は、世論工作だ。
こちらは、敵国に住む人々や兵士の世論を操作する。
例えば、ヴォルフスブルクの軍事力は高く、戦争を仕掛けても大きな被害を受ける。そういう風に報道をするように誘導することで、戦争を回避させたりすることだ。グレタが帝政とはいえ、戦う兵士や一般人が戦争を嫌がっていれば、無理に戦わせるのにも限界が生まれる。えん戦気分を作り出すことができれば、戦う前から有利な状況を作り出すことができる」
俺は前世の本で読んだ内容を部下に伝えていく。
スパイ戦は派手に見えるが、実は地味な戦いだ。
「それでは具体的な今後の方針を説明する。まずは、語学が堪能なものをマッシリアとグレタ駐大使館に、駐在武官として赴任してもらう。ただし、最初は無理をしなくていい。新聞や向こうの政府の発表を集めてレポートをまとめてくれ。あとは、相手国の貴族たちが主催しているパーティーに積極的に参加し、お互いの顔を知って友好を深めてくれ」
こうして、情報機関は誕生した。




