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第165話 軍縮

 俺は、ウィスキーを飲みながら考えをまとめた。

 これは罠だ。仮に、現在の状況で軍備の制限をすれば、航空戦力に対する投資が不十分であるグレア側の方が不利益が大きい。


 その不利益をペイできるほどの利点が何かあるはずだ。

 

 おそらくそれは……


「それは正式な外交ルートで提案してほしい」


「えっ? なぜですか? あえて、両国の軍備を制限してしまえば、あなたたちのほうが利益が大きいのに……無制限で軍拡を続ければ、国力に劣るそちらのほうが先に破滅するんですよ?」


 女スパイの言うことは正しい。実際、アメリカとソ連の冷戦時代も、アメリカの圧倒的な国力による軍拡にソ連の方がついていけていなかった。


 1980年代にアメリカ合衆国のレーガン政権が打ち出した「スターウォーズ計画」を含む軍拡には、ライバルのソ連もそれに追随しなくてはいけなくなり、経済力をすり減らしてしまった。その結果が超大国の崩壊につながったんだ。


 実際、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の戦間期における2つの海軍軍縮条約は、一見日本の軍備を制限したものに見えたが、実際は国力に劣る日本がアメリカに圧倒されるのを防ぐ枠組みが作られたともいえるのだ。


 その後、ワシントン海軍軍縮条約とロンドン海軍軍縮条約を無効化された第二次世界大戦では、アメリカは圧倒的な工業力を武器に航空母艦を量産。週間空母と揶揄(やゆ)されるほどの量産化計画で、両国の差を破滅的に離れてしまった。


 つまり、両国間の軍縮条約は国力が劣る方が利益が多い。ただし、それは外交上だけだ。内政は違う。

 軍縮が成立すれば間違いなく予算を減らされる軍部は、反発する。


 例えば、ロンドン海軍軍縮条約締結後に日本は軍部を中心としたテロリズムが頻発した。浜口首相暗殺事件、5・15事件など、軍部やその支持者は暴走し制御不能に陥った。


 ただでさえ、ヴォルフスブルクは統一したばかりで土台がまだ弱い。ここで内政における火薬庫をわざわざ持ち込むべきではなかった。


 つまり、この軍縮条約によって向こうはこちらの軍に不満を貯めさせようとしているんだ。そして、不満を持った軍の反主流派を裏から支援して……


 内戦やクーデターに誘導する。さらに、その混乱をついて軍事介入すれば……


 ヴォルフスブルクは簡単に崩壊する。おそらく、宰相はその口実作りを狙っている。


「それは本当の意味でこちらに利益があるのかな?」

 俺は、ウィスキーを飲み干してその場を後にした。

明日は更新おやすみです!

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