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第162話 ホームレス、ダンスを踊る

 俺は、老将軍との会談を適当な場所で切り上げて会場に戻る。

 俺が考えているこれ以上の作戦は披露できない。向こうにも何か隠し玉があるだろうからそれはお互い様だ。


 正直に言えば、向こうがここまで情報を開示してくるとは思わなかった。大胆不敵すぎる。だが、戦場において意表を突くのは最も効果的なやり方の一つだ。


 やはり、あの大臣は要注意人物だ。アルフレッドくらいしか戦うことができないだろうな。


 会場に戻ると音楽が流れている。どうやらダンスパーティーの時間らしい。一応、即興の練習はアリーナやリーニャとやってきた。こういうパーティーの場では、ダンスくらいできないと不利になるらしい。それは軍人でも一緒だ。


 そう言えば、生前に読んだトルストイの小説でも軍人が普通にパーティーを楽しんでいた。まあ、ロシアとかは高級軍人は貴族や特権階級出身者ばかりだったからダンスは一般教養みたいなものなんだろうけどさ。


 正直に言えば、ニート時代は時間はあったからゲームに疲れたら海外の古典小説を読み漁っていた。あの手の海外文学は、○○海外文学全集とかに収録されていて古本屋などに格安で売っているから時間は余っていてお金がないニートの強い味方だ。


 数百円で数千ページの小説が読めるのだから本当にニートの味方だ。大事なことなので何度も言いました。


 だが、19世紀くらいの小説をたくさん読んでいてよかった。なんとなく、貴族社会がどういうものかわかったし、その小説のあらすじを話すだけでみんなが俺に興味を持ってくれる。


 俺の世界では当たり前の内容だった小説が、この世界では未知で面白い内容だからな。俺は軍人を辞めて小説家になった方がいいのかもしれない。


 そんなバカなことを考えていたら、赤いドレスを着た美女に名前を呼ばれた。


「クニカズ将軍? もし、お暇でしたら踊っていただけませんか?」


 振り返ると、そこには造船場で戦った女スパイが笑っていた。赤いドレスと金髪の長い髪がとても美しく宙を舞っていった。


「光栄です、喜んで……」

 俺は苦笑いしながら彼女の手を取った。やはり、宰相側からのアプローチだろう。


 ある意味ではここからが本番だと思う。


『すげぇ、やっぱりクニカズ将軍はあんなきれいな女性と踊れるんだな』

『当たり前だろう。数百年にひとりの怪物だぞ』

『あの女性、綺麗』


 外野が俺たちのことをもてはやしている。だが、ここからは国家をかけた情報戦の第二ラウンドが始まる。音楽は優雅に流れ続けた。

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