第16話 ホームレス、異世界で就職する
こうして、俺はヴォルフスブルク王国に仕えることになった。早くも正社員だ。まさか、前世であそこまで大変だった脱ニートが異世界に来るとこんなに簡単にできるなんて思わなかった。
今回はアール砦防衛の功績で、士官学校もでていないのにいきなり大尉扱いで軍に入隊できた。どうやら異世界の大学卒業の経歴が大きいようだな。
特例中の特例だったので、1か月は研修みたいなものらしい。
基礎的な体力作りとかこの世界の知識を叩き込まれる。ニート生活のせいで体力が衰えていてついていけるか不安だ。まあ、なんとかなるだろう。俺にはダンボールの妖精の加護がある。
座学は、この世界の地理・歴史・薬学・魔力理論・戦略及び戦術論・机上演習。
実習は、体力づくりを中心に行われる。
とはいっても、俺が学ぶヴォルフスブルク軍事大学は、士官の中でも有望なものたちを選抜して入学させて将来の高級幹部を作るためにある。俺の同級生はほとんど士官学校卒業した軍人だ。軍事大学といっても、実情は大学院なんだよな。
この軍事大学を卒業していないと将官への昇進はかなり難しくなる。
だから、俺も将来の幹部候補ということだ。
アルフレッドは史上最年少でこの大学を卒業した超エリートらしい。だから、ここにいる学生たちはアルフレッドには劣るかもしれないが選ばれしものだ。
そもそも、庶民は金がかかる普通の学校には通えない。だから、国が無償で学ばせてくれる士官学校への倍率が異常に高くなる。そのエリートの中からさらに選抜された超エリートがここにそろっているんだ。
なんてことを考えているとかなり不安になる。俺ついていけるかな?
「おい、聞いたか? あれが異世界から来た英雄だぜ?」
「ああ、聞いた。女王陛下とアルフレッド大佐の推薦で無試験で入学できたやつだよな」
「ずるいわね。わたしたちは死ぬほど勉強して何とか入学できたのに」
うん、完全にアウェーの洗礼だ。まぁそうだよなぁ。たたき上げのエリートたちは俺を裏口入学したコネ野郎くらいにしか思っていないよな。くそ、胃が痛くなってくる。
「それでは授業を始める。まずは歴史だ。軍人は歴史を知らねばならない。なぜなら、歴史の事実が目の前の問題解決に役立つことが多いからだ」
教官はひげを蓄えた学者のような人だった。俺は大学で政治史をやっていたから歴史は得意なんだけど……異世界の歴史は守備範囲外だ。やばいな、女王陛下の図書館でヴォルフスブルク王国史くらいは軽く勉強してきたけど……
「まずは、この布陣図を見てほしい。これは古来の戦場を図上で再現したものだ。有名ではないかもしれないがトランドールの戦いといわれている。西軍は山の上に布陣し、東軍を鳥が翼を広げるように迎え撃っている。数は西軍が6万。東軍が5万。数的にも立地的にも西軍が有利だろう。このまま数の差で東軍を包囲してしまえばいいのだからな。だが、戦争の現場では東軍が勝利した。この東軍の奇跡の勝利についてみんなに考えてほしい。なぜか類推してみたまえ。では、そこのリーニャ大尉。答えてみたまえ」
歴史といってもこういう感じなんだな。どちらかといえばシミュレーションゲームみたいだ。
リーニャ大尉はさっき俺を侮蔑した目で見ていた女性士官だった。金髪のやせ型。とても美人だが、眼光が鋭いタイプ。
「西軍の士気が低かったからではありませんか。逃亡兵や命令を無視する兵が居たら勝てるものも勝てなくなります」
「なるほどいい着眼点だ。しかし、残念ながらそうではなかった。これは西軍が負けたら首都が陥落するぎりぎりの戦いだったんだ。では、次。クリスタ大尉どう思う?」
「補給が追いついていなかったからではありませんか」
「たしかに、大軍が負ける理由としてはそれが一番多いかもしれない。だが、そうではない。この戦場の立地を考えればわかるだろう。では、なぜクリスタ大尉の考えが違っているのかも踏まえて、異世界から来た救世主殿の実力を見せてもらおうか。クニカズ大尉、どうだ? わかるか?」
なんだよ、その無茶ぶりは……!?
「ええと……」